柔道女子78キロ超級で活躍した田知本愛(29)が現役引退すると18日、所属先のALSOKが発表した。「このたび私、田知本愛は現役を引退することを決断しました。柔道を続ける中で、たくさんのハードルがあり、弱気になり、諦めそうになったことが何度もありました。自分一人では乗り切ることができなかったハードルもありましたが、多くの方に支えていただきながら、自分が納得するまで柔道を続けることができました」と感謝の言葉をつづった。

最終的に引退を決断させたのは、左膝の負傷だった。16年、リオデジャネイロ五輪代表をかけた最終決戦、全日本女子選手権。国際大会の成績ではライバルの山部佳苗を大きく上回り、リードを持って臨んだ大一番の決勝に悲劇が待っていた。残り1分を切った時、山部の背面深い出足払いを受けた直後、左脚から力が抜けた。「よく分からない。初めての感覚」という混乱のなかで「残り50秒で立てるかで、五輪の可能性がなくなるのは嫌だ」と奮い立ったが、脚は動かない。攻勢を許し、寝技で一本負けを喫し、担架で救護室に運ばれた。結果、まさかの結末で代表権は山部の元に渡った。

その後は長いリハビリ生活を余儀なくされた。この日発表されたリリースでは「選手生活の中で特に印象に残っているのは、2016年の全日本女子柔道選手権大会でけがをしてから2017年の全日本女子柔道選手権大会出場までの過程です。大きな目標を失い、もう1度、畳に上るまで何度も自分のなかで葛藤し、とても苦しく厳しいと感じていました。しかし、いま振り返ってみると、どれも自分を成長させてくれる貴重な経験だったと感じ、何より柔道を楽しむことができました」と気丈に語った。この間、幼少期から二人三脚で歩んできた妹の遥がリオ五輪で金メダリストになった。喜びはもちろん、奮起して、もがき、柔道人生を全うしてきた。

左膝は完治しなかった。今年4月の全日本女子選手権でも棄権を余儀なくされ、8月の全日本実業団個人選手権でも本来の出来には遠く、影響を感じさせた。ライバルだった山部との準々決勝で反則負けで敗れ、体力面も考えての引退の決断に至った。

15年世界選手権は銀メダル、10、13、14年大会は銅メダルを獲得。グランドスラム大会など国際大会で活躍を続けた実績は色あせない。現在は筑波大大学院の修士課程に在籍しており、来年3月の卒業までは学業を優先する。その後はALSOKで社員として働く予定で、柔道に携わりたい希望も持つ。「今後は、これまで以上に自分を支えてくださった方々に感謝し、何らかの形で柔道に携わっていけるよう邁進して参ります」とコメントした。