35歳にして全日本に初出場した岩城禎(緑の館)が男子シングルス2回戦で、13歳の天才少年・松島輝空(そら、JOCエリートアカデミー)に完敗した。岩城は1回戦が相手の棄権により不戦勝で、松島戦が初戦。4-11、7-11、4-11でストレート負けした。

年齢差22歳の戦いを終えて、岩城は「ふだんの練習相手にもピッチの速い選手はいるけど、彼は速い上にミスがない。もちろん勝ちにいきましたが、1本でも満足いくラリーができれば、と思っていた。まるで年上の選手と戦っているみたいでした」と笑った。

何が何でも全日本選手権に出る-。男のロマンは、ウソみたいな話から始まった。

小学校5年の時、陸上クラブに入りたかった。定員8人に希望者が9人いた。ジャンケンでグーを出したら、回りが全員パーで即負けた。仕方なく入ったのが卓球クラブだ。その後も高校、大学でも競技を続けたが、全国レベルの実績は皆無だった。なのに「ずっと応援の側でしたけど“いつかは自分が出る”と信じて続けてきた」という。

神戸大法学部を卒業、司法試験に数回挑み、1度は奈良・大和郡山市役所に就職し、2年で退職した。結婚し、1歳、3歳の子どもが2人いる。現在は、将来の司法試験再挑戦の思いを持ちながら、自営で生計を立てる。退職は「このままの生活、練習量では厳しい」「1度きりの人生だ」と思ったから。全日本予選には「兵庫で7、8回、奈良で6回目。合わせて15回ぐらい」も挑んだ。

ついに念願はかなった。しかし、まだ物足りない。「今までは“出る”のが目標でしたから、来年は“出た上で1つ勝つ”ことを目指します」。日本の全選手に門戸を開いた大会に、岩城ほどふさわしい選手はいないかもしれない。