<競泳:日豪対抗>◇最終日◇10日◇キャンベラ

 男子200メートル背泳ぎで入江陵介(19=近大)が1分52秒86をマークし、自身初の世界新記録で1位となった。従来の記録はライアン・ロクテ(米国)が昨夏の北京五輪決勝で出した1分53秒94で、1秒08と大幅更新。苦手だったバサロキックを強化し、同五輪で5位に敗れて以降、精神面も成長した。日本人の世界記録は同五輪男子100メートル平泳ぎ決勝の北島康介以来で、この種目では28年の入江稔夫以来81年ぶり2人目。10代の日本男子では、58年200メートル自由形で19歳の山中毅が出して以来、51年ぶりの世界記録となった。

 日本の新エース入江が飛ばした。前半100メートルを、従来の世界記録より0秒31速くターン。「日本選手権ではびびっていた。落ち着いたレース運びができた」。4月日本選手権では前半で0秒45遅れ、後半盛り返すも、0秒08届かなかった。その反省から後半型の以前とは一転、果敢に攻めた。最後は1人旅で1分52秒86。北京五輪で出た史上初の1分53秒台を、1秒以上縮める驚異のタイムだ。

 32年ロサンゼルス五輪銀メダルの入江稔夫が28年に出して以来、この種目81年ぶりに日本人が世界新を樹立した。88年ソウル五輪100メートル背泳ぎ金メダルの鈴木大地も、世界新は1度も世界新を出せなかった。

 予兆はあった。前日9日に、もともと苦手だった100メートルで世界記録に0秒02差と迫った。日本代表の平井ヘッドコーチが「世界新記録が出ると思う」と、北島を育てた経験から太鼓判を押した。ペットボトルを額に乗せて泳げるという、軸のぶれない華麗なフォームが持ち味。加えて同コーチの勧めで着用したデサント社製のラバー水着の後押しを受け、バサロキックも力強さを増した。この種目で米国以外の選手の世界記録は10年ぶり。世界選手権(7月26日開幕、ローマ)で最大のライバルとなる米国勢に「プレッシャーをかけられると思う」と誇らしげだ。

 精神的な強さが備わってきた。北京五輪代表選考会となった昨年の日本選手権は、200メートル決勝前夜にアテネ五輪銀メダリストで、一緒に練習する兄貴分の山本貴司氏の部屋を訪ねた。100メートルで代表権を逃して不安にかられ、同氏の部屋で約15分間も泣き続けた。それが北京五輪では北島と同部屋となり、今では「五輪はメダルを取らないと面白くない」と言うまでになった。北島と接し、大舞台の重圧を楽しむぐらいの余裕が必要と痛感した。

 北島と同部屋になったのは、首脳陣が「ロンドン五輪のエース」と期待するからだ。同五輪は5位に終わったが帝王学を伝授され、心身ともに成長。環境が整って選手のピーク年齢が高まった男子競泳界で、10代の日本選手としては51年ぶりの世界記録保持者が誕生した。「世界選手権でこの記録を出さないと意味がない。いつまでもこのタイムにとらわれずにやりたい」。入江が、正真正銘の世界一へ弾みをつけた。