<フィギュアスケート:全日本選手権>◇24日◇大阪なみはやドーム◇女子SP

 真央は負けない。最愛の母匡子(きょうこ)さん(享年48)を9日に亡くした浅田真央(21=中京大)が、5度目の優勝に向け絶好の位置につけた。ショートプログラム(SP)を65・40点で2位発進。冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は、今回も回避し、優勝した11月のロシア杯同様に、2回転半で、安定性を重視した。首位の村上佳菜子(17)とはわずか0・16点差。今日25日のフリーでは、逆転で、優勝という最高のクリスマスプレゼントを亡き母に届ける。

 最後、天を向いた顔に、少しだけこわばった笑みが浮かんだ。浅田は演技が終わると、ホッとした表情で、肩でひとつ息をした。「なぜか、いつもと違う緊張感でした。今はホッとしている気持ち」。会場を埋め尽くした観衆は総立ち。鳴りやまない拍手が、浅田の気持ちを温かく包んだ。

 すべてを出し切った。65・40点は、ロシア杯で出した64・29点を上回る今季の自己ベスト。「今のプログラムに入っているものは、全部出した」。すべての要素に加点がつき、佐藤信夫コーチは「良かったよ」と声をかけたという。

 冒頭のアクセルジャンプは2回転半だった。この日は、佐藤コーチに相談せず、自分だけで3回転半回避を決めた。朝の公式練習で、3回転半を跳んだのはわずか2度だけ。それも着氷はしたが、不安定だった。その分、2回転半を入念に5度跳び、1度だけ失敗したが、手応えを感じて、本番に挑んだ。

 すでに、今季初戦のNHK杯フリーで、自身初めて3回転半を回避した。それまで、3回転半にこだわり続けた気持ちの垣根も、すでに取り払っている。佐藤コーチも「わたしの考えは、すでに彼女には伝わっている」と、あうんの呼吸を強調した。

 しかし、さすがの浅田も「足は震えなかったが、名前を呼ばれるまでは緊張していた」。母の不幸という重い経験は、いろんな思いを交錯させたに違いない。佐藤コーチも「テレビに映っている顔(の表情)通りではない。だいぶ緊張していたのは間違いない」と、浅田を気遣った。

 平常心を必死で保とうという姿は、痛々しくもある。彼女の強い気持ちは、母が闘病中でも、揺るがなかった。家族や親しい人以外には、母親の闘病の話は一切せず。必ず「お母さんは元気です」と答えていたという。12日の告別式を終え、氷に乗ってからは、一切の涙はなかったという。

 村上との差は、あってないようなもの。フリーで、もし3回転半を跳ばなくても、十分に逆転は可能だ。浅田自身も「完璧に跳べる状態じゃない。明日の練習を見て決めたい」と冷静だ。人生の中で、最大の試練は、今日25日、クリスマスの日に幕を閉じる。それを乗り越えたとき、浅田の人生は、またひとつ大きく成長するに違いない。それこそが、母がくれた最高のプレゼントなのかもしれない。【吉松忠弘】

 ◆世界選手権(来年3月、フランス・ニース)の代表選考

 日本の出場枠は男女シングル各3人。全日本選手権終了時に、以下の基準のいずれかを満たす者から総合的に判断して選出される。(1)GPファイナルの日本人上位3人(2)全日本選手権3位以内(3)全日本選手権終了時点での世界ランクで上位3人。なお、過去に世界選手権6位以内に入賞実績のある選手がシーズン前半にけがなどで含まれなかった場合、世界選手権時の状態を考慮し、選考の対象に加えることがある。