<フィギュアスケート:GPシリーズ第6戦・NHK杯>◇第1日◇28日◇大阪・なみはやドーム

 男子SPでソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19=ANA)は4回転ジャンプの転倒などのミスが重なり、78・01点の5位と出遅れた。上旬の中国杯の接触事故で負傷してから20日。体調を考慮して演技構成レベルを落としたが、厳しい結果となった。肉体面の言い訳はせず、精神面の課題を発見したことを収穫に、今日29日のフリーを迎える。3位以上ならGPファイナル(12月、スペイン)出場権を得る。

 羽生の顔から汗が噴き出る。目を見開きながらも、優しげな笑みで、感謝の言葉を伝えた。演技を終えて10分後、報道陣に囲まれた取材が終わるころだった。「良い時間でした。ありがとうございました!」。

 質問を受けながら、課題が浮き上がったからだった。「悔しい」を連呼しながら始まった応答中に、気づいた。「僕、ファイナル、ファイナルって言い続けてますね。いまはいま、ですよね。『ここはNHK杯なんだよ』って感じてきました。もっと集中しなきゃいけなかったんだ」。

 負傷してから、心の多くを占めたのは「ファイナル」だった。9日に帰国後は10日間は完全休養。大阪入りする前は5回しか練習できなかった。切れそうな気持ちをつなぐためでもあっただろう。前日の記者会見でも、幾度も口にした。2連覇がかかってはいたが、なにか意地のように「ファイナル」を繰り返した自分がいた。足元を見つめていなかった。肉体以上に、精神がいつも通りではなかった。縫合痕にテープを貼る顎を動かしながら、みるみる言葉が熱を帯びた。

 因縁の6分間練習。「集中しきれてないな」。習慣の2回転ジャンプを忘れ、会場に響く選手紹介のアナウンサーの声も耳に入る。変なことを考える自分への違和感。それを抱えながら、演技も始まった。

 案の定だった。万全でない両脚を考慮し、基礎点が1・1倍になるが負担がかかる後半から冒頭にした4回転トーループ。着地でこらえ切れずに尻もち。終盤の3回転ルッツでも手をつく。練習では跳べていたジャンプが、曲中では跳べない。「実力不足」とし、「(痛みは)ないです」と否定した。心の問題の方が大きかった。

 今日のフリーでは3位以上で自力でファイナル出場が決まる。4、5位でも可能性があるが、もう「ファイナル」は頭から消す。今日の出来は「30点」。ただ、自分なりの正解は短時間で発見できた。「追試」となるフリーでは、勝利の方程式を携えて逆境を制してみせる。【阿部健吾】

 ◆羽生のGPファイナル進出条件

 3位以上で進出が決まる。羽生は中国杯2位で13点。現在のGPファイナル進出ラインの6位は20点。3位(11点)になれば合計24点で上位6人に入る。表彰台を外した場合は、今大会に出場する無良(15点)ボロノフ(13点)アボット(7点)の結果次第。同点の場合は最高順位上位者が優先され、それでも決まらない場合は2戦合計スコアで競う。6位(5点)以下では進出できない。