<水泳世界選手権:競泳>◇26日◇上海

 男子100メートル背泳ぎで入江陵介(21=イトマンSS)が、52秒98のタイムで銅メダルに輝いた。前半は7位で折り返したが、後半の50メートルは決勝最速の27秒00。得意のまくりで前回09年ローマ大会200メートルの銀に続く、世界大会2個目のメダル獲得となった。高速水着が禁止された昨年以降、自身初めての52秒台。前回100メートルで4位に敗れた悔しさを吹き払い「200でも1個順位を上げたい」と、29日決勝の200メートルでの金メダルを誓った。

 トップのラクールから0・72秒差の7位でターン。残り50メートル、そこから入江の静かなる逆襲が始まった。焦らず、慌てず。体の軸がぶれないフォームで徐々に、徐々に、その差を詰めていく。残り5メートル。先行するラクール、ストラビウスのフランス勢に迫ったところがゴールだった。電光掲示板に「3」の数字が刻まれる。前回は0・09秒差でメダルを逃したが、今度は0・03秒差に笑った。

 入江

 今まで100メートルでは4位というのが多かったので、あとちょっとのところで悔しい思いをした。やっと世界大会の100メートルでメダル取れたことに、ホッとしてます。僕自身ひと皮むけたかなと思います。

 ラバー系素材の高速水着が花盛りだった前回ローマ大会。北島康介が不在の中、新たなエースとしての重責を求められた。メダルが期待された100メートル。待っていたのは4位だった。ショックのあまり顔面蒼白(そうはく)。道浦健寿コーチは「4番でもがんばったんですけど、がんばったように受け取れなかった。地獄に落とされたような感じだった」と振り返る。

 もともと200メートルが得意でスプリンターではない。だが、入江は100メートルでも進化した。昨年は右足首の故障に不調が重なり、100メートルは1度も55秒台を切れなかった。鍛錬期と割り切り、陸上トレーニングに重点を置いた肉体改造に着手。これまであまり行わなかった筋トレに積極的に取り組んだ。ひと冬越えると上半身は見違えるようにたくましくなり、上腕には格段のパワーがついた。

 と同時に、科学の力も導入した。国立科学スポーツセンター(JISS)のマルチサポートを受け、ビデオ分析を取り入れた。腰が沈み、体が「くの字」に曲がったフォームを修正。さらに体のバランスを定期的にチェックし、「より体が動きやすくなり、スピードが出るようになった」。かいあって6月欧州GPは100メートルでも3連勝し、脚光を浴びた。昨季のケガの功名から、力強く、精巧な選手となって帰ってきた。

 入江

 昨日康介さんがメダルを逃したので、メダルがチームの起爆剤になると思ってました。プレッシャーはかかりましたけど、自分自身にも期待していましたので。その結果として。

 まず100メートルで表彰台に上がり、200メートルへの予行演習は終了。視線の先には金メダルでのロンドン切符が見えてきた。「2年前より100メートルは1個順位が上がったので、200メートルでも1個上げたい。それが当たり前にできるように」。沈着冷静な入江から、威勢のいい言葉が飛び出した。【佐藤隆志】

 ◆入江陵介(いりえ・りょうすけ)1990年(平2)1月24日、大阪市生まれ。0歳からベビースイミングで水泳を始め、中学から本格的に背泳ぎに取り組む。近大付2年の06年にアジア大会男子200メートル背泳ぎで金メダル。08年北京五輪の200メートル5位。09年世界選手権200メートルで1分52秒51の日本記録で銀メダル。100メートルは4位。10年アジア大会100メートル、200メートル金メダル。趣味はスポーツ観戦、音楽鑑賞、ピアノ演奏。178センチ、63キロ。