代打の仕事は、常にプレッシャーのかかる場面で打席に立つ。技術的にはもちろん、精神面でもタフでなくてはつとまらない。23日の中日-ヤクルト戦18回戦(ナゴヤドーム)で、ヤクルト荒木貴裕内野手(33)の“プロフェッショナル”を見た。

4-7で迎えた7回。中日の4番手谷元に対し、先頭9番梅野の代打で左の宮本がコールされた。すでにイニングまたぎでマウンドに上がっていた谷元だったが、投球練習のみで中日は左腕の福にチェンジ。ヤクルトベンチも、すかさず代打の代打として、右の切り札荒木を送った。連敗を止めるべく、今季は代打としても結果を残している宮本を下げる、高津臣吾監督の駆け引きだった。

荒木は、ストライクゾーンの球にはすべてくらいついた。ファウル5球で、徐々にタイミングを合わせていった。カウント2-2からの8球目、最も甘く真ん中に入ってきた直球を中前へはじき返した。そして、2死二塁から山田哲の適時打で生還。1点を返して2点差とし、追い上げムードを作った。

勝利への思い、出場機会がなくなってしまった宮本の思いも背負っての打席だったに違いない。試合結果にはつながらなかったが、高津監督は「何が正解かは分からないですけど、すべてやれる策、手は出し尽くしていきたいと思っていたので。7回で代打の代打で(宮本)丈は使えなかったんですけど、荒木がなんとかという形で出塁して1点とったところまでは良かった」と話した。

今季は打撃不調のため、8月31日に出場選手登録を抹消された。イースタン・リーグでは8試合に出場し、12安打と一気に調子を上げて最短で再昇格をつかんだ。“代打の切り札”としてプレッシャーのかかる場面で打席に向かう。その一打にかけるため、若手に混じっての早出練習だけでなく、早出の前に室内で打撃練習を行っている時もある。複数ポジションを守れるユーティリティー性も持ち味の1つだが、その分試合前の練習は人一倍大変。内野と外野のグローブを使い分け、ノックを受ける。すべては、勝利のため。日々の積み重ねが、1本の安打につながっていると信じて。【ヤクルト担当・保坂恭子】