接戦続きの日本シリーズが行われていた中、戦場から離れたタテジマ戦士は静かに、それでも確かに、熱を帯びた秋季練習に励んでいた。隣にいるのは来季開幕1軍、そしてレギュラーを争うライバル。何より、弱点克服のため自分と向き合う日々を、おのおのが過ごした。

来季7年目を迎える阪神望月惇志投手(24)も、その1人だ。今季はプロ2年目の17年以来、4年ぶりに1軍登板なし。3年目の18年に中継ぎとして37試合で腕を振り、翌19年のCSファイナルステージ初戦では、巨人相手に先発マウンドを託された男。24歳になった今季は、ウエスタン・リーグでも17試合で防御率9・25と苦しんだ。制球が定まらず、フィールディングにも不安を持った。

そんな右腕に手を差し伸べるかのように、レジェンドからかつて送られた金言が頭に浮かんできた。

「ショートスローとかフィールディングは、ピッチングフォームをそのまま小さくするだけだ。フィールディングだから手で操作しようと思うんじゃなくて、ピッチングと同じように下半身を使って、体重移動して投げればいいんだよ」

「火の玉ストレート」が代名詞のレジェンド、藤川球児氏(41)の丁寧な口調が、望月の脳裏に再生される。19年から2年連続で、1月の沖縄合同自主トレをともにした大先輩。そのトレーニングの最中、「球児さん、なんでそんなにフィールディングうまいんですか」と聞いた後に帰ってきた言葉だった。

望月は秋季練習のある1日、何かに取り憑かれたように、ゴロ捕球を続けた。190センチ、88キロの巨体を曲げて、黙々と。安藤優也2軍投手コーチ(43)に正面からボールを転がしてもらい、腰を落として捕球し、そのままネットスロー。地道で、地味な動きだが、下半身はパンパンに張った。

「あれ、沖縄キャンプで2年前、野手の人がやっているのに混ぜてもらったことがあって。球児さんの言葉をもう1回思い返すと、ああいった下半身の細かい使い方が、ピッチングにつながるのかなと思って」

それだけフィールディングへの思いが強い。東京五輪や日本シリーズを見ても、あらためて思った。「日本代表クラスの人たちってフィールディングも、キャッチボールも、本当にうまい。フィールディングの動作と投球動作が、本当につながっているイメージが僕の中であるんです」。

19年のオープン戦で159キロをマークした大器。誰もがその剛球にロマンを抱く。あれから2年以上が過ぎた。気づけば後輩も増えた。同じ右投手は先発、中継ぎともに1軍争いは激戦。今季1軍登板ゼロに終わった事実から、来季も逆風のスタートとなることは分かる。だからこそ今、望月は投手としての原点に立ち返っている。

「フィールディングもキャッチボールもピッチングも全部含めて、『投げることを極める』のが一番大事だと思います。うまく投げるために『これしたいな』っということの繰り返しだと思う」

球児先輩への感謝も、下半身をいじめ抜いた秋の成果も、1軍のマウンドで体現することに意味がある。再びスポットライトを浴びるため、望月が地道に歩む。【阪神担当=中野椋】

安藤2軍投手コーチ(手前)にゴロを投げてもらい、腰を落として捕球する阪神望月(2021年11月15日撮影)
安藤2軍投手コーチ(手前)にゴロを投げてもらい、腰を落として捕球する阪神望月(2021年11月15日撮影)