12日から3日間、東京・代々木で行われた「野球指導者講習会」を取材した。その中で興味深い講義があったので紹介したい。

 2日目の13日、筑波大の准教授で野球部監督を務める川村卓氏(47)が行った「バイオメカニクス」。生体力学、または生物力学と訳されるもので、講義ではどうすれば速い球を投げられるか、どうすれば良い打撃ができるかを、動作解析などを中心に解説した。

 講義の終盤、あるプロ選手の打撃フォームの動作解析が紹介された。実際の映像ではなくコンピューターでグラフ化されたもの。左打者であることは分かった。

 川村氏は打撃動作の中の、肩と腰の回転を分析。ほとんどの日本人打者が腰→肩→腕の順番で動作が行われているのに対し、ある打者だけはまず腕が出て、その後グリップが出る位置で、腰と肩が一気に回転する打ち方をしているとグラフが示したという。

 川村氏によれば「この打ち方はツーシームなど手元で動くボールに非常に有効」なのだそうだ。「日本選手にはいない珍しいタイプ」ということで本人にも話を聞いたそうだ。その選手は「自分でも分からないんです。ただ小さい頃からメジャーリーグしか見なかった。バリー・ボンズの打ち方を真似していました」と答えたという。

 講義の中ではその選手の名前は明らかにされなかった。ソフトバンク柳田、エンゼルス大谷か? はたまた本塁打の飛距離がすごいと言われるソフトバンク上林? いろんな名前が頭を駆け巡ったが、ここは川村氏に確かめるしかない。そこで講義後、話を聞いてみた。

 -講義の最後に出てきた打者は誰ですか?

 川村氏 オリックスの吉田(正尚)選手です。去年、動作解析をさせてもらいました。

 -吉田選手は豪快なフルスイングが持ち味ですが、腰など故障が多い

 川村氏 非常に体に負荷のかかる打ち方です。腰の故障などこの打ち方が一因なのかもしれません。なので、他の選手に薦めていいものかどうか何とも言えないですね。

 吉田選手は敦賀気比-青学大を経て15年ドラフト1位でオリックス入り。1年目は63試合に出場し10本、2年目の昨季は64試合で12本と2年連続で2桁本塁打をマーク。173センチと小柄だが豪快なフルスイングが売りの長距離打者だ。ただ腰、脇腹など故障が多くシーズン通しての活躍がまだできていない。1年目は開幕後の4月に「腰つい椎間板症」、昨年は開幕直前の3月23日に「急性筋性腰痛」でリタイア。そこで昨年11月22日、徳島市内の病院で「腰椎椎間板ヘルニア摘出」の手術を受けた。手術後のリハビリなども順調なようで暖かいグアムで行った自主トレも充実していたようだ。

 吉田選手の豪快なスイングは常に故障というリスクと隣り合わせなのかもしれない。ただ昨年のWBCで日本人打者が苦しんだ外国人投手の「動くボール」を攻略するためには彼のような選手が必要なのは間違いない。2年後には東京五輪も控えている。また、1年間フルに試合に出続けたら何本打つのか-。3年目のシーズンに注目したい。【メディア戦略本部 福田豊】