東京に乗り込む直前。阪神監督の岡田彰布と会った。大阪で所用があり、それを済ませたあと「少しなら時間があるで」と老舗のバーで待ち合わせた。お気に入りのハイボールを飲みながら、開幕カードのことを語り始めた。

「なあ、今年はそんなにうまくはいかへんやろ。去年は特別よ。うまくいき過ぎたからな」。本音が出た。その時、すでに予感があったのか。巨人戦はまさに苦しすぎる3連戦になった。

2戦連続で完封負け。苦戦覚悟もこれは想定外。「3連勝とかは考えてない。極端にいえば1勝2敗でもエエよ。とにかく3連敗だけはしないこと」。あのバーで、こうも口にしていた。迎えた3戦目。ここを勝つ。それしか考えていなかった。

「チームが年々強くなっていくには…、何やと思う? レギュラークラスが数字を上げることも重要やけど、それを脅かす新しい力が必要なんよ。それがあれば、チームはより進化していくから」。3戦目、8回に出た森下の3ラン。無得点記録を止めたホームラン、森下は大ヒーローだし、それまで粘り強く投げた先発才木も素晴らしかった。

でも岡田は一方で手ごたえを感じていた。それは普段、地味な立ち位置にいる選手たちの底力に対してだった。森下の3ランが出る前、1死から小野寺がヒットを放った。代打での今季初打席で、小野寺は自分の特長を生かして突破口を開いた。反対方向に打つのが得意で、この打席でも逆らわずに、ライナーで右にもっていった。

即座に代走を送り、近本が続く。一、二塁で中野はセカンドゴロ。中野は足が速い。併殺はない。ここまで選手の特徴が生かされて準備が整った。森下の劇的弾が出るまでの背景に、岡田は高ぶっていた。

さらに9回、勝負を決める4点目は代走植田の走力と代打糸原の状況に応じたバッティングでもぎ取った。1死三塁でゴロを転がせば…の場面。これができなかった2試合だったが、糸原は苦もなく実践した。あとは小幡のホームラン。派手な森下の1発の陰で地味な存在たちの働き。岡田はこれがうれしかった。

投げる方もそうだ。才木から最後、ゲラ、岩崎につなぐまでの7回、2番手で出た桐敷の重圧は相当のものだったはず。点を与えてはいけない局面。それを1イニング、完璧に抑え切った。昨年、身につけた自信がそのまま出たマウンドでの姿。ベンチから岡田は頼もしそうに見つめていた。

今年は簡単ではない。バーで2024年シーズンの展望を明かした岡田の予言通りになった開幕3戦。結果的に1勝2敗と負け越しても、戦いは一方的でなかった。どの試合も紙一重。だから悲観的にはならない。大山、佐藤輝に当たりが出るまで、我慢、辛抱する。その中で新しい力、脇役が特徴を生かせば、何とかなる。それをつかんだ3試合となった。【内匠宏幸】(敬称略)