<イースタンリーグ:日本ハム3-6ヤクルト>◇18日◇鎌ケ谷

2軍選手の現状をリポートする日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(62)は、日本ハムの高卒2年目・細川凌平内野手(20=智弁和歌山)のさりげない動きの中に、独特のこだわりを見た。

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長く捕手をしていたため、ホーム側からバックスクリーン方向へグラウンドを眺めることが習性になっている。コーチから離れ、ファームの試合をスタンドから見るようになっても構図は同じ。なるべくバックネット裏付近から見ようと努めているため、視野は広がる。グラウンドレベルより景色は広がり、いろんなものが見えてくる。意識しているわけではないが、スコアブックをつけながらも無意識のうちに選手の攻守交代の動きが目に入る。

私は前日17日の日本ハム-ヤクルト戦で、ある違和感を覚えた。1人だけ通常の動きをしない選手がいる。これまでの経験上、見たことがない動線で守備位置についている。二塁手の細川だった。

鎌ケ谷をホームにする日本ハムは三塁側ベンチを使う。以前はホームチームは一塁側というケースが多かったが、今は選手の使い勝手を優先することが増えた。

細川は三塁側ベンチを出ると、捕手の後ろを回り、一塁ベース後方の右翼側から二塁の定位置に入る。普通は、マウンドとショートの間を通り、最短距離で移動する。こんな動きをする選手は、私の経験の中では細川が初めてだった。

スコアブックをつけながら、何かおかしいなと思いつつ、その違和感の原因が細川の動きにあるとわかってから、攻守交代を3度確認した。その3度とも細川は捕手の後ろ→一塁ベース後方を回って守備位置についていた。それも、しっかり走っている。

こうなると、細川の動きが気になる。2日連続で鎌ケ谷に足を運ぶと、幸運なことにまたしても細川は先発出場している。この日は「6番センター」だった。前日は二塁への移動を観察し、今度はセンターへの動きを追った。サード定位置の後ろ、芝生からフェアゾーンに入り、センターの定位置まで走っている。

そして守備の動きも、1球1球、投球がベース板を通過するタイミングで小さくジャンプしながら、素早く1歩目が切れるように反応している。こちらも興味があるからかなり根を詰めて観察したが、例外なく1球に集中していた。

さらに、レフトフライでは落下点の5、6メートル近くまで走り、レフト前ヒットではレフトの後方まで回り込んでバックアップをしている。センターでの打球処理は6回。中飛を2回、中越え、右中間、左中間への二塁打が各1本ずつ。中前ヒットが1本だった。右中間への二塁打ではカットマンへ正確に素早く送球しており、肩は良さそうだった。

肝心のバッティングは17日が3打数無安打1四球、この日は4打数無安打。まだ非力さは否めない。バットを肩の上に置くように構えてタイミングをとるが、まだ振り切るだけの力強さはない。プロ2年目。体作りを含め、バッティングにはもう少し時間がかかる印象だった。

いろんなタイプの選手がプロ野球に入ってくる。名門智弁和歌山からドラフト4位で入団してきたことから、素材は素晴らしいものを持っている。こうした自分なりのこだわりをもって、試合に取り組んでいることも、好感が持てる。

この日、偶然にもその細川と話す機会に恵まれた。前日17日のセカンド定位置への移動について聞いてみた。

細川 グラウンドに入らないのはスパイクの跡をつけたくないからです。それでイレギュラーするのも嫌ですし、サードやショートの前のグラウンドを荒らしてしまうような気がするからです。

この日センターへ入るのも、土に触れずに芝生から入っていた。細川なりの流儀なのだろう。チームメートへの気遣いが、その行動の趣旨だろうが、その根本にあるのは、試合に臨む上での細川凌平としての姿勢があるのだろうと感じる。

細部を気を付けることで、リスクを極力減らす。それを実践していくことで、自分のリズムをつくっていくのだろう。私の経験の中には見たことがなかったが、こういう考えを持ってプロに入ってきた細川のオリジナリティーは、インパクトがあった。

そして、同時に感じることもある。既にルーキーイヤーに1軍デビューしている細川は、生き残る厳しさを感じているだろう。プロの世界はこの競争を「だまし合い」とも言い換えることができる。相手を出し抜く、時にはチームメートをも押しのけて、少しでも優位にならなければならない。

レギュラーをつかむため、試合に出るため、1軍に生き残るため、現役でいるため、支配下選手でいるため。そこには常に競争、目まぐるしく変わるチーム内での序列争いがある。

チームメートのフィールドを荒らさないため、遠回りをして定位置に入る姿は、私には驚きでしかない。こういう繊細な気持ちを持った細川が、このプロの世界で1年でも長く、思い切りプレーしてもらいたいと切に感じる。

一方で、多少無神経になれる選手がチャンスをつかむことも、この世界では往々にしてある。細川も自分の中のセオリーを大切にしながら、チャンスをつかみに行く時は、もうしゃにむに、脇目もふらず、強引に奪いに行ってもらいたい。

最短距離よりもずっと多く走ることになるが、自分の中の約束事を守り、黙々と走る姿は新鮮だった。ファームで知った1つの個性に、多くのことを考えさせてもらった。(日刊スポーツ評論家)