これほどゆったりした気分で虎党がリーグ戦再開を待てるのも過去に例がないかもしれない。それだけでも今季の阪神、指揮官・矢野燿大は大きな仕事をしていると言える。ここで思い出すのは今年の宜野座キャンプで矢野が緒方孝市(日刊スポーツ評論家)と対談した際のことだ。

監督として広島に3連覇をもたらした緒方は反省、失敗経験からの立て直しがあった。それは就任1年目に「対巨人」の意識を持ちすぎた点だ。「巨人に勝たなければ優勝はできない」。その思いにとらわれ、チーム作りの基本がおろそかになったという。そこを反省し、やり直し、緒方はリーグ3連覇につなげた。

だから優勝を誓う矢野に対して「巨人にだけ勝ってもダメよな?」と話し掛けたのだ。それは矢野自身も普段から言うことでもある。まずは自分たちの野球をする。それが大事だというスタンス。しかし3年目の戦いを前に、矢野の口から出た言葉は違っていた。

「そうやね。でもオレは両方あると思うねん。緒方が言ったようにタイガースの野球をやる、相手がどうであろうと変わらないっていう強さ。これは身につけていきたい。でも巨人を意識して戦う部分もあっていい。そこをマイナスにするんじゃなくてプラスにする。まずは自分たちの野球を作る。そこに打倒巨人のプラスアルファを乗っけていくということやねん」

笑みを浮かべながら、そんな話をする矢野を見て「これはいよいよ腹を固めたな」と感じたものだ。緒方も「その思考が出てきたなら頼もしい。それでいいと思う」と笑っていた。

阪神にどこまでもついて回るのが「打倒巨人」のフレーズだろう。それを「時代が違う」「古くさい」とか言うのなら、それは勝手だけど、勝負ごとに対するロマンなど存在しないと思う。「相手はどこでも」なんてセリフは面白くない。

巨人を倒して優勝する。そしてクライマックスシリーズで巨人を甲子園に迎えて、撃退する。かつてなかったその流れで日本シリーズに立ち向かう。こんなシナリオの完結がうっとうしい世の中で、虎党にとっては、何よりも気持ちをスカッとさせることだ。

その巨人戦からリーグ戦が再び始まる。やっぱり今年の阪神は違うで。今季は強いぞ。そう思わせる姿を本拠地から日本中の野球ファンにあらためて見せつけるときだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)