そして佐藤輝明の「出番」はなかった。Bクラスが確定的な広島の前に甲子園で屈辱の3連敗。先制しながら逆転され、追いついても突き放される苦しい展開でどちらが優勝争いをするチームかという感じだ。重圧のない分、下位の方が伸び伸び戦えるのは事実だが、とにかく苦しい。

光明の1つは小野寺暖にプロ1号が出たことだろう。この日で終了したファーム、ウエスタンリーグの首位打者を獲得した。その力を5度目の1軍昇格でようやく見せたということだ。

その小野寺が昇格と聞いたとき「ひょっとして」と思った。佐藤輝と入れ替えたかと想像したのだ。だが抹消されたのは同じ右打者の陽川尚将だった。

前日29日、代打で出場した佐藤輝はNPBの記録をつくってしまった。野手ワーストの「54打席連続無安打」。前半戦、あれほど虎党を喜ばせた怪物ルーキーはどん底状態に陥っている。「いろいろ言わずにそっと見守ろう」という声もあるが、さすがにこの世界でそれは無理だろう。

「監督としては当たり前の判断。現状、チームに貢献できていない。何のためにベンチに置いておくのか。チームは優勝するために戦っている。その輪に加わりたかったらファームでもがいてはい上がればいい。それがプロの世界」

これは広島3連覇監督の緒方孝市(日刊スポーツ評論家)が9月10日、佐藤輝抹消時に発したコメントだ。正論だし、今もそのときと同様の状況である。あんなタイプの選手が代打にも出ず、ずっとベンチを温めていても仕方がない。

だがそんな正論どおりにはならない部分も阪神にはある。佐藤輝を巡っては緒方と正反対のことを言う一部のOB評論家もいる。使わないなんて。代打なんて。4打席立たせてナンボ。どうしても前半戦の活躍がチラつくので、そんな気持ちも分かってしまう。

佐藤輝に代わる選手がいればいい。だが正直、見当たらないのだ。なによりこんな僅差の試合を見れば流れを変える一撃を放てる存在が欲しい。その候補はやはり佐藤輝だろう。

もっと言ってしまえば育成のために佐藤輝と“心中”を覚悟するのか。それとも優勝のため“決断”するのか。だが佐藤輝を外したからといって勝てるわけでもない。どうすればいいのか。佐藤輝復活が再浮上への特効薬であることだけは間違いないはずだが…。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)