どないしたんや? と言いたくなる変身ぶりだ。湿りきった「2点打線」はどこへやら。打ちも打ったり、阪神は先発全員安打の14安打、得点はそれを上回る15点をマーク。甲子園では今季初のデーゲームとなった首位・中日戦は「虎祭り」と化したのである。

そこでクイズです。先発投手・大竹耕太郎を含むスタメン全員が安打を放ったこの試合、最後に安打を記録したのは誰でしょう-。

すぐ書いて申し訳ないが、答えは中野拓夢。7回にチーム11安打となる適時打を一、二塁間に転がし、11得点目を呼び込んだのだ。

「途中、自分と近本(光司)さんだけ(無安打)と分かっていた。それで目の前で近本さんが打って。自分だけだな、と思って打席に入ったんですけど、ヒットという結果が出てよかったです」。チーム首位打者である中野は笑みを浮かべながら話した。

全員安打はともかく「最後に打つ」ことは大きい。中野と同じ背番号「51」を背負ったあの選手を取材していた約30年前のことを思い出す。オリックス在籍時のイチロー。この欄でも時々書くが、それは「最終打席」にまつわる話だ。あまり野球のことは話さなかったイチローだが、あるとき熱心にこういう意味の話をした。

「無安打で迎えた最後の打席でヒットが出るかどうかは大きく違います。まず打率があまり下がらない。何より、そこで打てば翌日、次の試合に向けてのイメージが違ってくるんです。大差で勝っているとか負けているとか、そういうことには関係なく、最後の打席は大事です」

中野が言っていたのも、まさにこれ。イチローの話を出して、中野に確認すると同意して言った。「そうですね。それまでの打席で出ていなくて最後で出るかどうかは次に向けての気分が違ってきますから」。イチローとまで言わなくとも打率を稼ぐ打者の気持ちは共通しているのだろう。ちなみに中野の「最終打席安打」はこれで3試合連続となった。

もちろん安打だけではない。先制の1回無死一塁で中野はバントの構えでボールを見極めつつ、フルカウントから右打ちで走者を進めた。2回には四球を選び、相手先発・大野雄大を降板させた。クリーンアップが復調傾向にある今、2番・中野の存在感はさらに大きくなる。最後の「H」を3戦目につなげてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 3回裏を終えベンチで笑顔を見せる岡田監督(撮影・加藤哉)
阪神対中日 3回裏を終えベンチで笑顔を見せる岡田監督(撮影・加藤哉)
阪神対中日 7回裏阪神1死一、二塁、右前適時打を放ちベンチに向かってポーズをとる中野(撮影・前田充)
阪神対中日 7回裏阪神1死一、二塁、右前適時打を放ちベンチに向かってポーズをとる中野(撮影・前田充)