2017年夏、2018年春に「石田伝説」で甲子園出場した東筑が、福島の追い上げを振り切りベスト16入りを決めた。

1回表に敵失をからめて先制し、4回には2つの内野安打と犠打飛などで3点を追加。リードを6点に広げたが、4回裏に3点、9回裏に2点を奪われ、1点差で1死満塁に。一打サヨナラの危機を迎えたが、最後は併殺で締めて逃げ切った。完投した藤原圭一郎(3年)は「やっぱり9回の守りって難しいっス! マウンドで悔しがる自分の姿と、うれしがる自分の姿が2コ出てきて『うわ~! これが夏だよ~!』って思って投げていました」と、マンガのクライマックスを語るような口調で無邪気に笑った。青野浩彦監督(58)は「最初は(藤原が)元気よかったけど、最後はまっすぐ狙いでどんどん打たれたね」と苦笑い。昨夏は北九州に無念の初戦負け。スタンドから声援を送った1学年上のOBたちとともに、勝利の喜びをかみしめた。

昨夏、初戦負けで涙をのんだ1学年上の先輩と、喜びをわかちあうエース藤原圭一郎(中央)
昨夏、初戦負けで涙をのんだ1学年上の先輩と、喜びをわかちあうエース藤原圭一郎(中央)

■3年生全員でピッチャーの“オーディション”

「誰でもいい。投げられるやつはおらんかのう?」

ちょうど1年前のことだ。新チームは青野監督のこの一言から始まった。秋の大会を前に投手がいないという状況。3年生全員(18人)をブルペンで投げさせてエースを決める“オーディション”を行うほど、投手不足は深刻だった。投手の整備が間に合わなかったのは、絶対的エース・石田旭昇(法政大1年)の存在があまりにも大きかったからということもある。2季連続甲子園を果たした東筑の再出発は、そんな状況からのスタートだった。

一冬越えても、悩みは続いた。秋は田口天馬(3年)、春は松本丈太郎(3年)が。エース番号の選手が大会ごとに変わる。青野監督は悩んだ末、昨春センバツでサードを守った藤原に夏の「1」を託すことにした。公式戦での登板が昨秋の1試合のみという藤原だが、直球はチーム最速の138キロ。3回戦に先発し、シード校・嘉穂東を被安打3、8奪三振で完封した。「苦しい台所事情の中、藤原が見事に好投してくれた」と青野監督もビックリ。この日の福島戦も12安打を打たれながら試合を作り、156球の粘投を果たした。

公式戦3試合目の登板ながら、力投を見せたエースの藤原圭一郎
公式戦3試合目の登板ながら、力投を見せたエースの藤原圭一郎

■強いと思っていないところが強み

エース歴はたった3週間。「打たれて当然」の気持ちがあるから、プレッシャーがない。藤原は覚えたての変化球を駆使し、打者との駆け引きを楽しんでいるようだ。

「前回(3回戦)はめちゃめちゃうまくいったけど、今日は打たれた。普通の真っすぐでは後半打たれちゃいますね(笑)。次から修正します」。夏の大会は気負って力が出せず、涙の敗戦を味わう選手を多く見るが、藤原は「楽しむこと」に集中できている。危なっかしさはあるが「この子たちは、強いと思ってないところが強みなのかもしれません」と青野監督。4番で3安打を打った和久田秀馬(3年)も「失点は仕方ない。今日ぐらいのピッチングをしてくれれば、打線でカバーしていく」と頼もしい。次戦(5回戦)は同じ公立の雄・博多工だ。藤原は「ピッチャー、楽しいです。次も同じ公立校ですから、絶対に勝ちたいです」と意気揚々。伸びしろしかない藤原に、怖いものは何もない。【樫本ゆき】