旭川実が北見北斗に延長10回サヨナラ勝ちした。

 ミラクルの系譜は生きていた。6-6の同点で迎えた10回、旭川実の攻撃。2死満塁で4番池尻は集中力を高めて打席に立った。「絶対決めてやる」。カウント1-2と追い込まれたがフルスイング。全校応援で埋まった三塁側スタンドは悲鳴と絶叫が交錯する。白球は中堅手のグラブをかすめ、芝生を転がった。5年ぶり4強にベンチからナインが飛び出し、ヒーローに抱きついた。

 1度は崖っぷちに追い込まれた。9回表にまさかの2被弾で勝ち越された。それでもベンチに意気消沈する雰囲気はなかった。「ミラクル起こすぞ、ミラクルだ」。逆転に次ぐ逆転で8強に進み「ミラクル旭実」と呼ばれた95年の甲子園は、実体験では知らない世代だが、自然発生的にそんな言葉が出た。

 実は入学前の体験学習でナインの多くは、9回2死無走者から逆転した2回戦の鹿児島商(鹿児島)戦の映像を見ていた。冨永主将は「旭実は相手のエラーとかミスで何かが起きる野球をやってきたことは知っていました。今回もそういう雰囲気があった」と予感していた。まさにこの日の9回の同点劇がそれを象徴していた。

 先頭の2番浅川が三塁ゴロで一塁へ気迫のヘッドスライディング。内野安打となり、さらに悪送球を誘って一気に三塁へ進んだ。1死後、4番池尻は空振り三振に仕留められたが、捕手がワンバウンドした球を一塁へ送球するやいなや、浅川が本塁を陥れ、土壇場で同点に追いついた。送球間に次の塁を狙うのは練習で体に染みついていたプレー。浅川は「練習でいつもやっていた。狙っていました」と、決してギャンブルではないことを強調した。

 坂口新監督(31)も奇跡を信じていた1人だ。「不思議と負ける気はしなかった。必ず何とかしてくれると思っていた」。甲子園へあと2勝。終盤に何かが起きる「旭実劇場」は、今のナインにも受け継がれていた。【小林明央】