「親子鷹」で臨んだ甲子園は8強目前にして、敗れ去った。

 16点の大差をつけられて臨んだ9回表の攻撃。無死満塁で、南陽工(山口)山崎康浩監督(54)の長男大輔内野手(3年)に打席が回った。意地を見せるチャンスが最後に回ってきた。4球目。捕手が投球を後ろにそらした。その間に、三塁走者が本塁へ突っ込んだが惜しくもアウトになった。1死二、三塁。依然好機は続いたが、空振り三振に終わった。「最後のチャンスだと思ったんですが…」。試合後の第一声を振り絞った。

 野球を始めた小学校の時から主将で、中学もキャプテンを務めた。小さいころから、父の教えはこうだった。

 「キャプテンが一番練習して、一番苦しい思いをして、一番涙を流さないといけない」

 忠実に守り、高校では父とともに甲子園を目指すことになった。昨秋新チームが結成されると、1つ上の先輩からの指名で主将を務めることになった。正義感や使命感は人一倍ある。甲子園に行きたい-。父と仲間との夢をかなえるため厳しく接した。「主将になってから良くない雰囲気の時期があって。あの時は自分についてきてくれない感じでした」と大輔は振り返る。そんな時、幼なじみのチームメートが手をさしのべてくれた。「自分が厳しいことを言った後、フォローしてくれて。一番信頼しているやつで、すごく助かりました」。チームはまとまり、結果もついてきた。

 実は、幼なじみに手助けを頼んだのは父だった。直接悩みを打ち明けたことはなかったが、苦労していることを気付かれていた。「父がそんなことをしていてくれたなんて知りませんでした。ありがたいです」。甲子園入り後、この事実を人づてに聞き、照れくさそうに笑った。

 2回戦の秀岳館戦は自身の失策から失点した。「打球が強くてひるんでしまった。小さいころから『弱気は最大の敵』だと言われてきましたが、その通りでした。夏までに、どんなことにもひるまない強い気持ちを持てるよう精神面を鍛え直します」と、主将として再びチームを引っ張る覚悟だ。甲子園の土は持ち帰って帰らなかった。「夏にもう1度戻ってきますから」。大輔は、真っすぐ前を向いて言い切った。