公立の雄・相模原が、延長10回サヨナラ勝ちで初戦を突破した。

 エースの石井翔平投手(3年)は6安打6四球5三振で142球完投。この夏初めて、勝利の校歌を歌いあげると、目頭に熱いものが込み上げた。ベンチ裏に戻って、手のひらで涙を拭いていると、柴田高平捕手(3年)から「よく頑張ったな」と声をかけられた。石井は再び、手のひらで顔を隠した。勝って泣くのは小学生以来だった。

 苦しい展開をしのいで勝った。延長10回表、先頭打者に左翼線二塁打を打たれる。犠打で1死三塁。絶体絶命のピンチが訪れた。2ボールからの3球目。相手はヒットエンドランを仕掛けてきた。三塁走者がスタートしたのを確認すると、石井は外角に外し、空振りを奪った。三塁走者をアウトにし、2死走者なし。この回を無失点でしのいだ。石井は「走者を見て外すのは練習してきましたから。練習通りです。平常心でできました」と話した。

 春の失敗から、夏のテーマは「平常心」と掲げる。4月19日の県春季大会・桐光学園戦。5-3と2点リードの6回、先頭打者を遊撃失策で出塁させると、一気に崩れた。その回に8点を失い、7回コールド負けを喫した。敗戦後、「エラーをみんなでカバーしよう」と話し合い、学校グラウンドのベンチにあるホワイトボードに「平常心」の3文字を書き加えた。その3文字を実践できた。

 1点リードの8回、先頭打者を三塁失策で塁に出す。さらに2連続四球で無死満塁。ここから平常心を取り戻し、最少失点に抑えた。佐相真澄監督(58)は「8回を1点でしのいだのが大きかった。春は違ったからね」と、バッテリーの成長を感じてた。

 石井はエースナンバー「背番号1」を昨年から背負っている。柴田高も昨年夏は1番打者で出場を続けた。「自分が引っ張らなくてはいけない」という重圧は「なるべく考えないようにしている」と柴田高は言うが、どうしてもバッテリーにのしかかる。「平常心」の3文字を念じることで、試合中は重圧に打ち勝った。勝利の瞬間、重圧から解放されての涙だったのだろう。石井はしみじみと「苦しい試合でした」とポツリと言った。初戦を乗り越え、エースの高校最後の夏が始まった。