奈央先生あと1歩届かず-。東北初の本格的な女性監督、涌谷の阿部奈央監督(25)が1点差及ばず惜敗した。昨秋、今春と県大会出場の仙台高専に善戦。1点差に迫ってから2者連続の犠打や重盗を仕掛けて同点を狙ったが、1-2と初戦敗退した。4月からチームを率いて公式戦3試合目。初勝利に全力を尽くした選手11人とともに、さわやかな風を吹かせた。

 流すつもりだった涙はなかった。阿部監督は真っ先に選手を褒めたたえた。「いい試合ができた。勝つつもりでやっていたけど、100%以上の力を1人1人が出せた」。負けたとはいえ、エース左腕佐々木亮祐(3年)の力投などで1-2と公式戦3試合目で最少点差。未熟な指導を、選手11人に助けられてきた。感謝も忘れなかった。「ありがとうと言いたいです」。

 春の東部地区予選2試合を終えて学んだスモールベースボール。1点を追う7回に駆使した。先頭の6番清水大輝内野手(3年)が右前打で出塁すると7、8番の連続犠打で、清水を暴投などで点が取れる三塁に進めた。9番菊地蓮外野手(3年)は四球で出塁して一、三塁。ここで阿部監督は「両方3年生。走れる2人だったので」と、重盗のサインを出した。昨年4月、涌谷に体育教諭として赴任し、野球部の部長になった。その時から苦労を知る2人に同点を託した。だが菊地が二塁タッチアウト。采配は実らなかった。

 野球部員だけでなく、校内の生徒からも「奈央先生」と呼ばれて慕われる。ベンチでは常に「集中」などと声を出し、笑顔を絶やさなかった。技術的な指導はまだまだでも、その雰囲気が涌谷を変えた。佐々木は「みんな伸び伸びと野球ができるようになった」と言う。選手の采配への提案も素直に聞き入れた。春に比べ、夏は自然とチームに一体感が生まれた。だからこそ、主将の大森優輝外野手(3年)は目を真っ赤にした。「奈央先生に勝利を届けたかった」。

 3年生6人が抜けると、1、2年生5人だけになる。今秋は連合チームになる可能性が高い。阿部監督は指揮を執ることに「秋以降は未定ですね」と話した。東北で初めて公式戦の采配を振った女性監督は春、夏と大きな足跡を残した。「ずっと高校野球に携わっていきたい。監督でなくても」。最後まで奈央スマイルだった。【久野朗】