技巧派左腕・和田朋也投手(3年)を擁して初優勝を狙った山村学園は、花咲徳栄の埼玉夏5連覇を阻止できなかった。

初回、和田は先頭打者にいきなり死球。1年夏、初めての公式戦登板が花咲徳栄戦。その先頭打者も死球だったという。「ちょっと思い出してしまって…」。結局、初回は3四死球に失策も絡み、6失点。「王者の風格というか、オーラに負けた気がします。それに、まさかあそこまで打つとは」と苦笑いしながら振り返った。

9回を投げきり11安打11失点。結果は出なかったが「楽しかったですね」と高校生活最後となったマウンドを見つめた。「1年の時は苦しかった。今日は楽しかった。目の前の強い相手に立ち向かえる楽しさがありました。1年秋からエースにしてくれた岡野先生には感謝してもしきれません」と笑顔で話す。

岡野泰崇監督(43)も報道陣に笑顔で対応した。「今日はどんな試合になっても和田に全部投げてもらおうと思っていました。この3年間、和田にはたくさんいい思い出をもらった。自分なりの恩返しかな」。そこまで言うと、涙がこぼれた。

「面倒くさいヤツでした」と笑い「だからこそ、なおのこと思い出がありますね」としみじみ話す。2年夏公式戦はグラウンド整備途中、ベンチで涼む和田に岡野監督自ら、バナナや水を口に運んでいた。「おれはお前の何なんだ? 優しい彼女なのか?」と冗談まじりに訴えかけながらも、水を口元まで運んでいた。

まだ幼さが垣間見えた性格が見違えた。「最後までしっかり投げきった。あそこが痛い、ここがかゆい…そんなことを言う和田が今日は何も言わなかった。逃げなかった」。敗れはしたものの、背番号1にふさわしい姿がうれしかった。

和田は「うちはまだ伝統のない高校。花咲徳栄みたいに打ちまくって勝てるチームじゃない」とかねて話していた。粘り勝つ野球が身上。この日もこつこつと1点ずつ返そうとするナインの気概に乗せられ、和田も疲労を苦にすることなく最後まで投げ抜いた。

たくましくなった教え子たちの戦いに岡野監督は「新しい山村の歴史ができるように、また頑張ってやりたい」と涙をぬぐった。【金子真仁】