今春のセンバツ(3月19日開幕)から、高校野球でも申告敬遠が導入される。メジャーリーグでは17年から、プロ野球でも18年から導入された。1投手が1週間に500球以内の「球数制限」と同時に開始される新ルール。4球投げないのは守備側、攻撃側にどのような影響を与えるのか、各監督に話を聞いた。【取材・構成=石橋隆雄、望月千草】

ついに高校野球にも申告敬遠が導入される。甲子園でも敬遠にまつわる数々のドラマが起きた。一番の伝説は92年8月16日、星稜(石川)松井秀喜が明徳義塾(高知)戦で受けた5打席連続敬遠で社会問題にもなった。当時の映像を見ても、4球投げて歩かせるまで、どの打席でも45秒から1分はかかっている。だが今センバツから申告敬遠が導入され、審判への合図ひとつ、0球で即一塁へ歩くことになる。

「それは味気ないですよね」。当時2年生で明徳戦に出ていた星稜・林和成監督(44)は素直な思いを口にした。「高校野球はスピーディーですから、次の打者はネクストで準備する時間もないまま、すぐに打席に向かわなければならない」と、次打者が慌ててしまうことに懸念を抱く。これまでの次打者は、相手が敬遠する4球の間に配球を読んだり気持ちを整えたりすることができた。だがその間がなくなる。

星稜戦の対戦相手だった明徳義塾・馬淵史郎監督(64)も考えは同じだ。「申告敬遠で間違いなく、展開はスピーディーになる。攻撃の場合、1死三塁で相手に(満塁策として)2者連続で申告敬遠されたとする。その場合、次の次の次の打者に、すぐ指示を送る必要がある。代打を送ることもあるだろうし、相手投手が交代する場合もある。先の先を読んで対応しないといけない」。3手先、4手先を瞬時に考える必要が出てくる。有利なはずの攻撃側が慌てることになりかねず、指揮官の采配力も問われる。

星稜・林監督は「1つの大会で2、3個くらいでは。(申告せずに)そのまま四球まで投げることもできるので」と数多いプレーではないと考えている。だが「投手もちょっと変わるかも。練習しておかないと。シミュレーションをやっておかないといけない」と引き締めた。攻撃側、守備側でどう心理的影響などが出るのか。センバツ前の練習試合などで試す必要を感じている。

明石商(兵庫)の狭間善徳監督(55)は申告敬遠について「4球得するな。球数500球であれば、その4球はありがたいなという風に思う」と、球数制限とも関連付けた。投手側にとって「申告敬遠はすぐに走者が出て、投手が次の打者に同じように投げられるからリズムも崩れないと思う」と心理面でのプレーへの影響はないと考える。「敬遠4球投げて、次の球が押し出しや浮いて打たれることもある」。これまでのように立った捕手へ4球投げて歩かせた後、再び捕手を座らせて投げる難しさを実体験しているからだ。

プロ野球では99年に阪神新庄が敬遠球をサヨナラ安打にしたことがある。「新庄じゃないけど打って三遊間もあるし、1球1球にドラマがある」。敬遠ドラマの消滅を残念がったが、「今度は500球の中で違うドラマが生まれるはずや」と、新ルールで野球が変わる可能性を口にした。

履正社(大阪)岡田龍生監督(58)は「故意四球ならムダに4球投げず、0でという米国の合理的発想。球数を減らすにはいい」と申告敬遠そのものが時短になると考える。だが、球数制限がかえって試合を長引かせると心配する。「待ち球作戦や粘って球数を投げさせるようになると、試合時間はこれまでよりも長くなるのでは。その日の途中で500球を迎える投手相手ならそうなる」。本来は投手を守るための新ルールが、逆手に取られる可能性を指摘した。

天理(奈良)中村良二監督(51) いいか悪いかはやってみないと分からない。今までは敬遠の4球の間に、ベンチ内に控えていた打者を代打の準備をさせることもできたけど、代打を出すタイミングが遅れたりするかもしれない。申告敬遠は勝敗を左右する場合にするだろうし、状況を複雑に考える必要が出てくる。

龍谷大平安(京都)原田英彦監督(59) 押せ押せの攻撃の時に、申告敬遠をされると間ができてしまうので、試合そのものの流れが変わることも出てくる。

大阪桐蔭・西谷浩一監督(50) まだ細かい運用も決まっていないので、始まってみてからになると思う。(選手が)気持ち的にはリセットしたりとか、やらないといけないと思う。練習試合や紅白戦で試せる時があれば試したい。

智弁和歌山・中谷仁監督(40) いろいろな関係者が知恵を絞って決めてくれたルールなので、僕たちは努力を積み重ねていきます。