甲子園に高校野球が帰ってきた。新型コロナウイルス感染拡大により中止となった今春センバツに出場予定だった32校を招いて行われる2020年甲子園高校野球交流試合が開幕した。明徳義塾(高知)は4番新沢颯真内野手(3年)の右越え2点三塁打で逆転サヨナラ勝ち。策士の馬淵史郎監督(64)は例年と違う采配を明かした。「今私たちにできることは白球をひたむきに追いかける全力プレーです」と両校主将が並んで選手宣誓をした花咲徳栄(埼玉)-大分商は、初回に3点を奪った花咲徳栄が逃げ切った。

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いつもの夏なら5万人の大歓声で、甲子園が揺れていた。1点を追う9回2死一、二塁、4番新沢が内角高め直球を捉えた打球は、右翼手の頭上を越えた。「65歳(実際は64歳)でもサヨナラ勝ちはうれしいですよ」。数々の名勝負を演じてきた馬淵史郎監督も、思わずガッツポーズを繰り出した。

7回まで無安打ながら、四球と2本の犠飛で2-1とリード。無安打のまま勝てば、1953年(昭28)夏の1回戦で慶応(神奈川)が北海(北海道)に勝って以来の珍事だった。「何か嫌な予感がしていた」の言葉通り8回に4点を奪われ逆転されたが、その裏、新沢が三遊間を破った。31人目の打者のチーム初安打を足がかりに1点差に詰め寄り、サヨナラ劇を呼び込んだ。9回、新沢を迎えたところで相手は救援のマウンドから右翼に下げた左腕エース阪上陸(3年)に再び継投。左打者の新沢だが「左腕の方が打てる自信があった。練習の時から左をずっと打っていたので」。阪上対策で2週間ほど左腕を打ち続け、準備した成果だった。

ベンチに入れなかった部員は、アルプスではなくベンチ後方の上から2段目、保護者は最上段からマスク姿で拍手で応援。ブラスバンドもチアも部員たちのダンスもない。かち割りやビールの売り子の声も姿もない、カレーや焼き鳥の匂いもない。手拍子の音がナインの背中を押した。馬淵監督は「ベンチ入ってゲームをやっていたら、一切、外野なんて見えない。ゲームに入ったら勝って校歌を歌いたい。やっぱり甲子園はいいですね」。大声を出せなくても、甲子園で校歌を歌うのが格別なのはいつもと同じ。最初で最後の試合のため、次戦対策で作戦、投手の球種を隠すことはなく「逆に集中できる」と采配面の違いも明かした。

「起伏の激しい夏でした」。新型コロナウイルスに何度も泣かされた。全国で練習再開となった6月には、日本高野連が作成した動画に出演し、練習メニューなどを公開。「手の内を見せるというか、もう65歳で隠すこともない。みんな知ってますよ。高校野球発展のために少しでも力になれたら、うれしい」。甲子園で試合はできた。2時間27分の激闘は、高校野球ファンに夏の暑さを送り届けた。【石橋隆雄】

◆白スパイク 高校野球ではセンバツの開幕予定だった今年3月20日から、スパイクの色で黒以外に白が認められた。白は黒より熱を吸収しにくく、熱中症対策のため。甲子園交流試合の初日は明徳義塾だけが履いていた。

<甲子園交流試合アラカルト>

▼滞在期間 各校の滞在時間を短くし、近隣地区の学校は日帰りとするため1日3試合までとし、開始も午前10時と遅めに設定。宿泊は前日と試合当日の最大2泊。できるかぎり1人1室を用意する。

▼招待人員 ベンチ入り選手は例年の18人から2人増やして20人。責任教師(野球部長)、監督、記録員1人、補助員5人、校長またはそれに準じる者1人の計30人。

▼無観客 無観客が原則。野球部員と教職員、部員は各1人につき保護者、家族合わせて5人まで観戦可能。次の試合の保護者はアルプス席に待機する。例年のブラスバンドやチアの応援はできない。

▼飲食 売店は閉店。かちわり、ビールなどの売り子もなし。

▼校歌 勝利校は距離を取って整列し校歌を歌う。大声は禁止。

▼土集めなし 1試合ごとにベンチ内消毒を行うため、時間的制約から「甲子園の土」を集める行為は禁止。出場校には後日、阪神園芸の協力で土が贈られる。

▼取材 試合前取材はなし。スカウトや保護者をスタンドで取材することも禁止。試合後はこれまでの1階でのお立ち台ではなく、売店などが並ぶコンコースに移動し行われる。

▼後援新聞社 今回はセンバツ主催の毎日新聞社、全国高校野球選手権主催の朝日新聞の2社が後援。スコアボードの旗は上から毎日、朝日と並び、試合前にはセンバツ大会歌「今ありて」、夏の大会歌「栄冠は君に輝く」の順番で場内に流れた。