<高校野球西東京大会:日大三2-1佼成学園>◇28日◇決勝◇神宮球場

 昨夏の全国王者が土俵際で踏ん張った。日大三は0-1で迎えた9回2死一、二塁、金子凌也内野手(3年)が2点二塁打を放って佼成学園を逆転。2年連続15度目となる夏の甲子園切符をつかんだ。金子は昨年から唯一のレギュラーながら前の試合まで16打数3安打と打撃不振に陥っていたが、土壇場で主将の意地を見せた。

 昨夏の全国王者が敗れるのか。神宮に異様なムードが漂う中、金子は打席に向かった。散発3安打で完封負け寸前の9回2死一、二塁。「絶対何とかしてやろう」と狙った初球、125キロの低め直球を右中間へ運んだ。「詰まっていたので捕られるかな。絶対抜けてくれ」と祈りながら走ると、打球は抜け2人の走者が生還。土壇場での逆転に、普段は「あまりしない」ガッツポーズを繰り出した。

 連覇の重圧に苦しんでいた。「感じていないつもりだったけど、打てない理由だったかも」。昨夏の甲子園では唯一の2年生レギュラーとして、打率5割7分1厘と大暴れした。しかし、主将として迎えた昨秋は都大会にも進めず、春は1回戦敗退。秋は寮で、春はグラウンドで、小学校以来となる悔し涙を流した。今大会も試合前まで16打数3安打、打率1割8分8厘と絶不調だった。

 準決勝前夜の夕食後、小倉全由監督(55)に寮から車で10分のファミリーレストランに連れ出された。他の選手と一緒にラーメン屋はあったが、2人きりは初めて。桃のパフェを食べながら「結果を気にせず、余裕を持っていけよ」と助言された。大会中、試合を思い出しては眠れぬ夜を過ごしていたが「去年、吉永(健太朗=早大1年)にもこうしたんだ」と聞くと少し楽になった。吉永も昨夏、西東京大会序盤は苦しんだが、徐々に調子を上げて甲子園優勝投手となった。

 小倉監督は優勝インタビューで「長くやっているけど、今日みたいなゲームは初めて」と男泣きした。ロッカー室に戻ると「一番打てる選手が、いい当たりでも安打になっていなかった。真面目ないいやつ。あそこで初球、よく振れたよ」。涙の理由は「金子が逆転打したこと」だった。

 甲子園では、深紅の大優勝旗をチーム全員で返還できる。「1戦1戦、戦っていく」。個人個人の能力が飛び抜けていた昨年のチームと違うことは承知済み。出場校で唯一、連覇を目指す。【斎藤直樹】

 ◆日大三

 1929年(昭4)創立の私立校。生徒数は1256人(女子433人)。野球部は29年創部、部員数は74人。甲子園出場は春18度、夏15度目。71年春と01、11年夏に全国制覇。OBにオリックス近藤一樹ら。町田市図師町11の2375。堀内正校長。◆Vへの足跡◆1回戦10-0東京高専2回戦7-0府中東3回戦10-0都武蔵4回戦10-1府中工準々決勝3-0日野準決勝3-1創価決勝2-1佼成学園