<全国高校野球選手権:聖光学院2-1日大三>◇11日◇1回戦

 巧みな配球で昨夏王者を手玉に取った。聖光学院(福島)のエース岡野祐一郎投手(3年)が、日大三(西東京)を散発4安打で1失点完投。左打者の内角と右打者の外角を正確に突き、1巡目には得意のチェンジアップを隠すなど頭脳的な投球が光った。

 岡野は自分に言い聞かせた。「逃げたら負ける」。1回1死二塁、左打席には昨年のVメンバー金子がいた。初球に外角を見せた後は、続けざまに内角攻め。5球目の135キロ直球を詰まらせ、左飛に打ち取った。立ち上がりのピンチを脱して波に乗り、昨年の覇者を4安打1失点に抑えた。

 打者1巡目は直球とスライダーを中心とし、チェンジアップは1球しか投げなかった。だが、2巡目は捕手の長井が「直球を狙ってきた」と感じ、チェンジアップを織り交ぜた。そして3巡目以降はフォークボールも交えた。何度もバットの芯で捉えられ、5回には1死満塁のピンチもあった。だが、帽子のつばに書いた「大胆不敵」の文字を見つめ、全力投球で乗り切った。「我慢して最後まで厳しいコースに投げられた」。納得の勝利だった。

 配球の工夫は、研究の成果だった。試合2日前と前日、長井と部屋に閉じこもり、日大三の地区大会決勝の映像を見た。「左打者は全方向に打つが、右は内角を引っ張る。スイングも打球も速い。甘く入ったら持って行かれる」。相手打線の強力さを痛感した。

 2人で1時間以上、話し合った。どうしたら抑えられるか。結論は「左打者には内角をえぐり、右打者は外角を突く」。金子ら1発のある左打者の内角を攻めるには勇気がいる。岡野は「打たれるのは覚悟しよう。歳内(阪神)さんのように、空振りを取れる球はない」。だが制球力には自信がある。「低めに、コースに投げるしかない」。作戦は決まった。

 マウンドでは闘志を前面に押し出す岡野だが、普段は口数が多い方ではない。中学時代は4番手投手。高校入学後、1つ上の歳内、芳賀智哉(東海大)の投球を間近で見て「いい投手は気持ちを表に出す」と、まねして声を出し始めた。母裕子さん(44)も「静かな子だったのに、試合で叫んでいて驚いた」。気迫の中に冷静さも持ち合わせるエースが、昨夏王者の前に立ちはだかった。【鹿野雄太】