<全国高校野球選手権:高崎健康福祉大高崎5-3岩国>◇13日◇1回戦

 高校通算57本塁打の高崎健康福祉大高崎(群馬)の「上州のゴジラ」脇本直人外野手(3年)が、甲子園デビュー戦で、足で魅せた。2安打1打点の打撃に加え、1盗塁を含めた俊足をアピール。チームは4盗塁すべて得点につなげる持ち前の機動力野球で、岩国(山口)に逆転勝ちし、3年ぶりの夏1勝を挙げた。

 ひたむきに、貪欲にプレーした。高崎健康福祉大高崎・脇本が、持っている才能を、甲子園のグラウンドでぶちまけた。

 第1打席で、観衆の目をくぎ付けにした。カウント1-1から「狙っていた」(脇本)スライダーをすくい上げるように、右前へ運んだ。打球は、ほぼ定位置にいた右翼手の前へポトリと落ちた。その瞬間、50メートル走6秒1の俊足を飛ばし、迷わず一塁を蹴った。「外野ノックを受けた時、芝生が湿っていてボールが弾まないと思いました。(打球は)落ちると思ったので、走りました」と、してやったりの表情だ。

 “脇本劇場”はさらに続く。次のターゲットは三塁。大きなリードを取って、岩国・柳川投手を揺さぶった。4番打者の4球目。スライダーがショートバウンドすると、すかさず三塁へ滑り込んだ。「(岩国・水野捕手は)ショートバウンドを体で止めるデータがあった」と、再びしてやったりの表情を浮かべた。3回には犠飛を打つなど4打数2安打1盗塁。大会前、通算57本塁打の長打力以上に「足を見てほしい」と宣言した通り、走りまくった。

 甲子園で絶対に、活躍したかった理由がある。「プロに行って、おじいちゃん、おばあちゃんに楽をさせてあげたいです」。両親が離婚し、3歳から祖父桂太郎さん(75)祖母淑子さん(72)に育てられた。6人きょうだいで、金銭的な苦労をかけたことは数知れない。祖父母のことを「パパ、ママ」と、呼ぶ“孝行息子”にとって、2年連続の群馬県勢優勝、そして自分の夢をかなえるために、大舞台でのアピールは絶対条件だった。

 「2人に甲子園での1勝をプレゼントできて良かったです。次もしっかり打って、頑張りたい」。“親孝行”と“就職活動”が、できるだけ長く続く夏にする。【和田美保】