<全国高校野球選手権:山形中央9-8小松>◇14日◇1回戦

 4年ぶり2度目出場の山形中央が、土壇場9回の大逆転劇で小松(愛媛)を破った。3点を追う9回表、1点差に詰め寄ってなお2死二塁のチャンスから、高橋和希内野手(3年)が右中間越えの同点三塁打。続く中村颯内野手(3年)が中前打を放ち、逆転に成功した。チームは夏初勝利。山形の公立校では77年の酒田工(現酒田光陵)以来37年ぶりの勝利となった。2回戦は19日の第1試合で東海大四(南北海道)と対戦する。

 9回表で3点差。山形中央ナインの頭には、県大会決勝の場面がよみがえっていた。同じく9回2点ビハインドから、一気に5点を奪い逆転した。「ここでひいていたらダメだと思った」と中村はいう。俺たちならまた、やれる。午後6時前、甲子園球場の内野照明が点灯するとともに、逆転劇場はスタートした。

 先頭は9番高橋裕佑(2年)。相手4番手のカーブを中前へ運び、反撃ののろしをあげた。1番佐藤僚亮(2年)が二塁打で続き、代打奥山慎吾(3年)の内野安打などで1点差まで詰め寄った。2死を取られた後、走者を二塁に置いて打席に立ったのは5番高橋和だ。2年生だった13年のセンバツ岩国戦で3回1/3を1失点、さらに逆転三塁打を打ち、チームに甲子園初勝利をもたらした男だった。「同点になるイメージしかなかった」。初球を振り抜き、一気に三塁まで駆け抜けた。

 なお1本出れば勝ち越しの場面で、打席の中村は「負ける覚悟は出来ていた」。気持ちが高ぶるどころか、落ち着いていた。フルカウントに追い込まれてからの6球目。直球を中前へポトリと落とした。勝ち越しても、相手に敬意を払い、ガッツポーズは作らない。「結果的に勝ち越し打だった」と試合後も冷静だった。

 中村は13年センバツでは三塁手として出場。その経験が動じない心を作った。1-11で大敗した3回戦の浦和学院戦を「気持ちが揺れ動いていた」と振り返る。以来、練習からプレー1つ1つで一喜一憂しないよう「ずっと心がけてきた」という。チーム全体でも、9-10と1点を追う状況から始めるシート打撃を繰り返し練習してきた。苦しい試合展開が続いたこの日も、最後の逆転を信じていた。

 庄司秀幸監督(38)は「選手に助けられました」とたたえた。普段から「開き直りがすごい。武士の自分と違ってラテン系なんです」と話すナインが、期待以上の力で夏初勝利をつかんでくれた。高橋和は「夏の1勝で伝説を作れた。ここから常勝チームにしていけばいい」。山形中央の夏は、まだ終われない。【高場泉穂】