<センバツ高校野球:北照5-4自由ケ丘>◇30日◇2回戦

 神懸かり的なバントで勝利を手繰り寄せた。北照(北海道)が自由ケ丘(福岡)を5-4で下し、初のベスト8入りを決めた。エース又野知弥投手(3年)が負傷で5回途中で降板するアクシデントを全員野球でカバー。3-3の9回表2死三塁、木村悠司二塁手(3年)が三塁線ギリギリに決めるセーフティーバントで勝ち越し、激戦を制した。北海道勢のベスト8進出は93年の駒大岩見沢以来17年ぶり。北照は31日、準々決勝第4試合で昨秋の神宮大会優勝校、大垣日大(岐阜)と対戦する。

 自由ケ丘の選手も1万6000人の観衆もあっと言わせる「秘打」が甲子園で飛び出した。3-3の9回表2死三塁。2番木村に打順が回ってきた。「打席に入る前にやろうと決めていました」。いきなり初球の直球でセーフティーバントを試みた。

 三塁線にコロコロと転がった打球は、三本間の途中で、少しずつ白線のほうに切れていく。ファウルになると信じた自由ケ丘の小野剛貴投手(3年)行弘剛三塁手(3年)は捕球せずに見守った。河上敬也監督(50)も「止まってくれと祈っていました」という打球は1度、白線右側に触れ、今度は真っすぐ転がった。最後は白線の内側約10センチ、フェアゾーンでピタリと停止。その間、三塁走者の金沢政人三塁手(2年)は、勝ち越しのホームを走り抜けていた。

 木村は冷静にそのシーンを振り返った。「切れないという自信はありました。ノーサインです、自分の力が出せました」。この日は2-0の7回2死三塁でも二塁へゴロのプッシュバントを成功させて走者を迎え入れた。小技で貴重な2点をもぎ取る大仕事をやってのけた。

 神懸かり的な一打だった。グラウンドはファウル側に緩やかな傾斜がついているため、球に斜めの回転があれば切れていくのが普通。甲子園のグラウンド整備を担当する阪神園芸の関係者は「めったに見ることのない打球です。バントは縦回転がかかっていた。確かに試合終盤でグラウンドは荒れていないということはありませんが、それ以前にうまいバントでした」と証言する。打球の方向、強さに加え、球の回転まで考えていた。

 大阪出身の木村は中学時代に所属していた茨木シニアでは、3年生までレギュラーになれなかった。それでも甲子園の夢を抱き、シニアの先輩のいる北照に入った。しかし、なかなか出番は巡ってこなかった。昨春、両親からの手紙が届いた。「最後まであきらめるな」。短い言葉だったが、心に火が付いた。それから熱心にバント、守備練習に取り組み、河上監督の目に留まった。昨秋に背番号4をつかんだ。

 突然のアクシデントもチーム一丸となって乗り越えた。エース又野が負傷で5回途中で降板した。2番手左腕千葉竜輝投手(3年)がスクランブル登板で、7回に3点、9回に1点を失ったとはいえ、粘りの投球で持ちこたえた。打線も5回までは左腕小野の前に3安打と沈黙したが、6回からの4イニングで8安打で5点を奪った。

 1回戦秋田商(秋田)戦はエースで4番の又野のワンマンショー。今度は全員で力を合わせ、道勢17年ぶりの8強をつかみとった。河上監督は「九州の強豪とこんな試合をするとは思わなかった。ミスもあって満点はつけられないが大きな1勝です」とたたえた。準々決勝の相手は現在公式戦20連勝中の強豪大垣日大(岐阜)。千葉も「投手は目立って気持ちいい。てっぺん目指します」と大きな目標が自然と口を突いた。おぼろげだった春の頂点が見えてきた。【中尾猛】