<センバツ高校野球:日大三14-9広陵>◇1日◇準決勝

 サクラが散った-。広陵(広島)が準決勝で、8回の大量10失点が響き敗退。決勝進出、そして7年ぶり4度目の春優勝は逃した。しかし、しっかり夏への収穫は得た。名将・中井哲之監督(47)が潜在能力を認め4番で使い続けた“金本2世”こと、丸子達也内野手(2年)が、甲子園で右翼席へ突き刺さる弾丸ライナーでの初アーチを披露。一時は勝ち越しとなる1発で本番に強い男への変身をアピールした。

 「よっしゃぁ!」。打球が弾丸ライナーで右翼席中段に突き刺さるのを見届けると、丸子は右こぶしを突き上げ一塁を回った。同点の7回表。先頭で左打席に入ると、カウント1-1から日大三・吉永の内角高め直球を振り抜いた。中井監督も「あれで決まったと思った」と振り返る“幻の決勝弾”は「通算10本は打ちたい」と臨んだ甲子園での記念すべき自身1号。結果的に同校の甲子園での最多失点で負けはしたが、アーチは残した。

 90年から指揮を執る中井体制では初の「夏1年生4番」に任命された。入学直後の5月にパワーを見せつけ、指揮官に「当時の金本(阪神)よりスイングが速い」とまで言わしめた。当時の本塁打映像はすぐに動画検索サイトにアップされた。だが夏県大会は24打数4安打2打点。如水館との決勝も快音なしで敗れた。重圧から逃げたくなったこともある。この日スタンドで見守った父康則さん(45)も「あれほど落ち込んでいる様子は見たことがない」と振り返るほどだ。

 戦艦大和を生んだ呉市で生まれ育った。実家は木造3階建て。2階が2人の子供にあてがわれる予定だったが「祖父母に2、3階を占拠された」と笑う。幼少から大きく、近所のサッカースクールでは常にGKを任された。「いやいやながら」無失点記録を更新した。仁方中に入り家族とともに地元オープンの大和ミュージアムに行った。10分の1スケールの戦艦大和がある。プラモデルマニアの丸子には新鮮だった。

 年明け10日に母校を訪れたOBの阪神金本の一挙手一投足を遠巻きに眺め「自分も威圧感のある打者になりたい」と甲子園入りした。その金本の見守る初戦・立命館宇治(京都)戦で初打席を二塁打で飾る3安打2打点デビュー。続く宮崎工戦でも二塁打、さらに準々決勝・中京大中京(愛知)戦でも2安打。大振りは封印し左への安打が多かったが、この日はついに“波動砲”を解禁した。

 初の夢舞台は17打数7安打4打点。「準決勝で緊張した。足りないところも分かった」。ネクストバッターズサークルで丸子の春は終わったが、甲子園はあと3回チャンスがある。大化けした丸子が、必ずや聖地に戻ってくる。【佐藤貴洋】