<全国高校野球選手権:遊学館11-0一関学院>◇8日◇1回戦

 手も足も出なかった。第92回全国高校野球選手権大会(甲子園)の2日目が行われ、一関学院(岩手)は遊学館(石川)に大敗した。初回、三塁まで走者を進めながら先制の好機を逃すと、自慢の打線は沈黙。6回裏にはミス絡みで大量8点を失った。昨年、センバツ準優勝、夏も4強入りした花巻東に続く岩手代表の勢いに乗ることはできなかった。沼田尚志監督(51)が就任した86年秋以降、4度目の夏で初めて初戦敗退となった。

 1つのミスから均衡が崩れた。0-0の6回裏無死一塁。緊迫の場面でエース高橋貴浩は冷静さを失った。バントの打球を体勢が整う前に二塁へ送球。ボールは宮本涼主将の頭上を越え外野へ。カバーに入った榎本大輝中堅手(いずれも3年)の三塁への送球も走者に当たり、ピンチは二、三塁に広がった。

 流れは止まらない。適時打でついに失点を許した。四球で満塁となり、2番手・沼田健人(2年)を投入したが、押し出し死球。さらに畳み掛けられ、あっという間に打者13人で8点を失った。沼田監督は「悪送球で困惑してしまっていた」と肩を落とした。

 「打のチーム」に変身を目指しつつ、守備にも力を入れてきた。ノックの球回しはワンバウンドで送球。胸より上の送球を禁じ、逆にショートバウンドは受け手の責任で捕球を練習した。自信のあった送球のミスから大量失点。マウンドで常に笑顔を絶やさなかった高橋は「バント処理を失敗して不安になった」と下を向いた。

 「打」の沈黙が響いた。1回表1死二塁の好機、岩手大会でチーム一の7打点の3番宮本、同2位(4打点)の4番榎本の2人で点が取れなかった。流れをつかみ損ね、2回から6回まで3者凡退。沼田監督は「焦りました」。ミスを生んだ原因は、リズムを作れなかった打撃にあった。

 岩手大会は、6試合で60安打38得点と打ち勝ってきた。前夜、ナインは蛇口(へびぐち)由将投手(3年)の母幸子さん(48)から、アントニオ猪木氏の写真入りお守りをもらった。猪木氏の「ダー!」を「打」とかけ、裏には「迷わず行けばわかるさ」と書かれていた。言葉通り、初球からフルスイングで遊学館・土倉将投手(2年)に挑んだ。だが空回りして7回2死まで無安打。結局、散発3安打に終わった。

 昨年、センバツ準V、夏4強で地元・岩手に勇気を与えた「花巻東旋風」に続こうと乗り込んだ甲子園。沼田監督は「岩手のレベルの高さを証明できなかった。県民の皆さまに申し訳ない」とつぶやいた。2/3回で4失点した沼田は「先輩に申し訳ない…」と最後は言葉にならなかった。3年生9人の無念は70人の後輩に受け継がれ、新たな1年が始まる。【湯浅知彦】