<全国高校野球選手権:早実21-6中京大中京>◇14日◇2回戦

 早実(西東京)がOBのソフトバンク王貞治会長(70)が見守る前で、歴史的大勝を飾った。昨夏優勝した中京大中京(愛知)に甲子園歴代3位の25安打を浴びせ、21点を奪った。得点、安打数は同校史上最多。1回に4番小野田俊介外野手(3年)の先制打などで7点を奪うと、1番重信慎之介内野手(2年)が5安打4打点、3番安田権守外野手(2年)が4安打4打点と爆発した。早実の連覇阻止は早大・斎藤佑樹投手(4年)を擁して駒大苫小牧(北海道)を破った06年以来。史上最多5度目の「連覇ストップ」を決め、17日の3回戦は関東一(東東京)との東京対決に挑む。

 真夏の甲子園に、早実の奏でる打球音が響き続けた。1回1死一、二塁、4番小野田がスライダーを狙い、中前に先制適時打を放つ。昨夏のエースから打者に専念した主砲の一打を号砲に、中京大中京の左腕、浅野の高めに浮いた変化球をたたき続けた。7番深沢が左中間に3点適時二塁打を放つと、9番鈴木からは4連打。打者13人で、7点。試合開始から21分間、攻撃を続けた。

 小野田は「ほとんどの人が驚いていると思う。自分も、驚いています」と笑った。弱小校ではない。相手は79年ぶり2度目の対戦だった連覇を狙う中京大中京。4万7000人のファンが、かたずをのんで接戦を待っていた。和泉実監督(48)は「本当にこのチームは毎回毎回驚かされることが多い。私の期待をいい方に裏切ってくれる」と苦笑いだった。

 5回には打者16人で11安打を放ち12点を奪った。OBのソフトバンク王会長が初観戦する前で記録した25安打、21点はともに28度の甲子園出場を誇る早実史上最多だ。清原、桑田を擁したPL学園が85年の同じ8月14日に記録した32安打、29得点を思い出させる猛攻。高校時代の王会長も、日本一に輝いた早大・斎藤もできなかった大記録だ。エース鈴木は「(観戦は)知りませんでした」というが、偉大な先輩が大好きな、打ち勝つ試合で“御前試合”を飾った。

 平日の練習時間は約3時間と決して長くはない。そのうち約半分は打撃練習に費やす。大阪入り後は宿舎近くの武庫川沿いで、毎晩約30分の素振りを繰り返した。1番重信は「打撃練習で打球を上げたら意味がない。たたきつける意識でやっている」とチームの意識は徹底している。

 1番重信が5安打4打点、3番安田は4安打4打点と暴れた。重信は3歳でゴルフを始め、中学2年生でドライバーは285ヤードをマーク。「ゴルフのフェアウエーは狭いけど、野球は打てる範囲が90度もある」。安田は打席に入る前に腕立て伏せを10回。イチローと同じように屈伸し、バットを投手に立てて打席に入る。3日前に急性胃腸炎にかかったが、病院で点滴を受けて、大一番に乗り込んだ。

 1回戦に勝利すると、和泉監督夫人あてに、早大・斎藤から祝福のメールが届いた。東西東京の代表校は隔年で宿泊ホテルを交代するが、今夏は06年優勝時と同じ水明荘。試合前夜は斎藤らと同じ出陣飯、ステーキ&トンカツの「Vレシピ」を食した。06年夏の2回戦は日本ハム中田を擁した大阪桐蔭を破った。2回戦の強豪突破は吉兆。強打の早実に、あの夏を再現する予感が漂ってきた。【前田祐輔】