プレーバック日刊スポーツ! 過去の5月23日付紙面を振り返ります。2001年の3面(東京版)はヤクルト藤井秀悟投手の記事でした。

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<巨人4-8ヤクルト>◇2001年5月22日◇東京ドーム

 予期せぬ怒声だった。ヤクルトの左腕、藤井秀悟投手(24)の完投ペースがヤジで狂った。7点リードの9回表。遊ゴロに倒れた藤井が巨人ベンチに向かい、頭を下げた。ヤジに思わず反応したが、9回裏マウンドに上がる前には目には涙がたまっていた。先頭の江藤に本塁打を浴び、続く松井から3連続四死球。高津が後続を断ち、5勝目は手にしたが今季2度目の完投を目前のまさかの降板劇は、今後の対決に遺恨ムードを残した。

 全力疾走で一塁を駆け抜けたヤクルト藤井が巨人ベンチ前で立ち止まった。9回表。2死三塁で打席に入ると遊ゴロを放つ。この時点で8-1と7点の大量リードにもかかわらず打ちに出て、全力で走った。この展開で、そこまでするのか! -巨人ベンチからヤジを浴びせられたのだ。

 次の瞬間、「すいません」と3度、頭を下げる。そのままベンチに戻ったが、9回裏のマウンドに向かう前、ベンチで腰を下ろす藤井の目は真っ赤だった。その姿は、5安打1失点と、快投を演じていた8回までとは別人だった。こみあげる感情を抑え切れない。目元を潤ませ、気持ちの整理もつかないまま先頭江藤に1発を浴びた。さらに3連続四死球を与え、降板した。新巨人キラーの異名さえささやかれるプロ2年目の左腕にとって、巨人から浴びたヤジは、心を打ち抜く「痛打」となっていた。

 「いろいろありますから……」。試合後、アイシング姿で報道陣の前に現れた藤井は1度も笑みを見せることなく、最終回のマウンドを振り返った。「江藤さんに打たれた本塁打は点差もあったから。でも、あと……」。そう言って言葉に詰まった。自分が取った行為。7点差でも打ちに出たプレーが、これほど反発を買うとは想像もつかなかったようだ。

 抑えの高津が後続を断ち、巨人戦負け知らずの2勝を含め、ハーラートップタイの5勝目を手にした。若松監督は「藤井で負けるわけにはいかなかった」と絶賛した。だが、藤井には白星と引き換えに大きな宿題を残した試合となった。藤井の帽子のツバにはこう書いてある。「心如鉄石」。マウンド上で強いハートを持ちたい、という気持ちを込めたものだ。もんもんとした思いをシャワーで洗い流したのか、球場を離れるころはサバサバした表情に戻っていた。「僕は打つことも一生懸命しないといけませんから」。鉄のハートを取り戻そうと、懸命になっているように見えた。