楽天の星野仙一球団副会長が4日午前5時25分に死去した。70歳だった。親交のあった日刊スポーツ記者が、その死を悼んだ。

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 星野さんと最後に会ったのは昨年10月3日だった。7月に倉敷商時代の思い出を取材。写真を撮り忘れたので再度アポイントを取った。

 「写真かぁ。お前、写真なんか撮れるのか」と言われた。

 いつものようにゆっくり歩き「よう」と大きな右手を挙げ、ふらりと待ち合わせのカフェに現れた。洗いざらしの白いシャツ、その上に革のベストをはおり、程よく色落ちしたジーンズと合わせていた。

 「それ、いいカメラだな。プロのカメラマンに借りてきたのか。今のカメラはすごいから。素人でも撮れる。大丈夫だ」

 「ここ、逆光だからな。逆光、分かる? 撮っても真っ暗だぞ。オレがこっちに移動して、お前はそこから撮れよ」

 不慣れな姿が滑稽に映ったのだろう。穏やかに笑いながら指示を出してくれて、撮影は一瞬で終わった。

 いつも通り私服はしゃれていたが、シャツもジーンズもワンサイズ大きくなっていたのが少し気になった。14年に黄色靱帯(じんたい)骨化症の手術をしてから体の管理は非常に気を使っていたので、ダイエット中なのかなと思った。

 「最近は、なかなか遠出する気になれない。正月はハワイに行く予定なんだけど。孫が『行く』っていうからさ。ちょっと遠いよな」

 海外好きにしては変だなとも、少し気になった。それでも「久々にコース回ったぞ」と楽しそうにゴルフの話もしていたし、ポストシーズンに向かう楽天についても熱っぽく話していた。気のせいかと思いつつ、1時間ほど雑談をして別れた。

 最後にゆっくり話したのはその2週間ほど後の10月15日、CSファーストステージ第2戦の試合直前だった。メットライフドームに姿がなく電話した。

 「球場に来ないんですか」

 「西武ドームは遠い。階段が長い。行くだけで疲れる。テレビでゆっくり見るよ」

 思ったより長くなり、試合が始まった。ドームから歓声が聞こえた。

 「あ、今、茂木がホームラン打ちよった。先頭打者ホームランだ。これ、ウチが西武に勝つぞ。いける。お前も戻れよ。見るんだろ」

 「じゃあ日本シリーズ、仙台で会いましょう」

 「そうだな…でも仙台も遠いからなぁ」

 「遠い」を繰り返されて、少しの気掛りがだんだん大きくなっていた。監督、お疲れさまでした。急すぎます。【宮下敬至】