中日松坂大輔投手(37)が「日本生命セ・パ交流戦」で、昨季まで3年間所属したソフトバンクから“恩返し”の3勝目を挙げた。ソフトバンク在籍時はわずか1試合にしか登板できなかったが、今季は7試合目の登板。2回に野選で先制点を許したが、5回3安打1失点。リーグ打率トップの4番柳田から2三振を奪う快投で、チームを最下位から4位に引き上げた。

 したたり落ちる大量の汗は、立ち上がりからかさんだ球数のせいだけではなかった。松坂にとってソフトバンク戦とは特別なものだった。推定で3年総額12億円という大型契約を全うできなかった。意識は「あったと思う。普通に投げようと思っている時点で、意識していた」と素直に明かした。味方の野選がらみで先制を許し、なお2死満塁の2回。不安定な立ち上がりの中で、4番柳田を迎えた。

 昨年まで仲間だった。能力を熟知しているから「一番抑えなくてはいけない打者」とマークしていた。逃げず、腹をくくり、力勝負を選択した。初球。ヘルメットが脱げ落ちる豪快な空振りを見て「気持ちいいと思ったけど、怖さも感じた」。それでも外角直球で押し続けた。平行カウントからの5球目は外角低め、ピンポイントの140キロ。見逃し三振で上回った。

 「大谷君と対戦したい」とソフトバンク入りした4年前。故障が続き、願いはかなわなかった。大谷は海を渡った今、柳田は現在の日本球界で最高の左打者であり、松坂にとっては現在地を見極めるのにこの上ない相手だった。4回2死二塁。ピンチで再び相まみえた。

 第2打席よりもっと大胆に攻めた。外角ではなく内角を軸球とした。しかも直球ではなく、柳田の体に向かってからベース板に曲がるシュートで掘り起こした。カウント1-2からの4球目は、ストライクとコールされてもおかしくない懐いっぱい。腰を引かせ、外を1球見せてから再び内角シュートを振らせた。主導権を渡さないまま空振り三振に封じ「勢いをつけると後が大変。結果的に抑えられてよかった」と息をついた。

 5回104球。臀部(でんぶ)に張りが出て降板した。球数か、汗のせいかは分からない。「昨日も投手陣をたくさん使っていた。降板してチームに迷惑をかけた。申し訳ない」と反省した。ただ松坂は、辛酸をなめ続けた古巣に対し、これでもかと意地を見せつけた。【伊東大介】