一塁側ベンチで背筋を伸ばした広島緒方孝市監督(49)は、最後まで表情を変えなかった。「勝つチャンスは十分にあった。力の差は感じていない。自分の力不足。期待に応えられずに本当に申し訳ない」。指揮官として2年ぶり2度目の挑戦となった日本一への道のりはまたもかなわず、本拠地マツダスタジアムで涙をのんだ。

王手をかけられて迎えた本拠地試合。攻めのタクトは空回りした。1回、田中の盗塁は1度セーフと判定されるもリクエストの結果アウトに。続く2回は2死一、三塁から、二盗を狙って失敗。打順は下位の8番石原。2ストライクというバッテリー有利なカウントからの盗塁死に、広島ベンチの空気は一気に重くなった。8番からの攻撃となった3回を3者凡退に抑えられると、以降は二塁すら踏むことができなかった。

セ・リーグを圧倒した戦い方を貫くつもりだった。打力は太刀打ちできた。先発中継ぎの駒不足は差となって表れ、何より持ち味の足技がソフトバンクの守備力の前に封じられた。「選手はカープの野球を信じて最後まで戦ってくれた。ソフトバンクに隙がなかった」。シリーズ通して9度狙った盗塁はすべて阻まれた。

勝ちたかった。この日、指揮官に大きな影響を与えた1人、三村元広島監督の命日だった。3連敗を喫した翌2日の移動日前には、実家の佐賀・鳥栖市にある母の墓前で手を合わせた。同日も、父のいる実家には立ち寄らず、午前8時過ぎには広島に戻った。日本一になってから報告するつもりだった。監督就任以来、4年かけたチームでの日本一は自分だけでなく、選手、球団、ファンが願った夢。その道のりは険しく、厳しいものだとあらためて痛感させられた。【前原淳】