阪神近本光司外野手(24)が「日本生命セ・パ交流戦」の西武2回戦(甲子園)で、嫌なムードを振り払った。ベテラン福留孝介外野手(42)が両ふくらはぎの張りで出場選手登録を抹消され、試合も先手を奪われた中、4回にチーム初安打。続けざまに二盗、三盗を決め、逆転への突破口を開いた。チームは5カードぶりの勝ち越しで、シーズン折り返しを貯金2でターン。ドラフト1位ルーキーがバットと足で虎浮上の道を切り開く。

   ◇   ◇   ◇

空気を一気に変えた。風を切るように近本がロケットスタートを切った。低姿勢のまま二塁へスライディング。塁審が両手を広げると、今季最多観衆の46726人が一斉にメガホンをたたいた。

「いつでも行けるようにと、タイミングをうかがっていた。チームに良い流れを持ってこれて良かったです」

足で流れを持ってきた。2点を追う4回、先頭で打席に向かうとチーム初安打となる右前打で出塁。直後の糸原への2球目で果敢にスタートを切った。リクエストによるビデオ検証でも判定はセーフ。16試合ぶりの盗塁を決めた。圧巻はその次だった。糸井の2球目に相手バッテリーの隙を突き、三盗を狙う。ストライク送球が来るも、伸ばした左足が先着した。セ界2位となる18盗塁目。交流戦は初対戦の投手ばかりだが「盗塁は、初見であってもデータや映像があるので準備ができる」と頼もしい。

試練を乗り越えた。6月中旬には22打席連続無安打とスランプが訪れた。だが、結果が出なくても全く動じない。「気持ち(の部分)だけなので…」。しっかりとした野球観があるから、不安にはならない。試合前にはテレビ解説や新聞評論などで来訪した球団OBらから細かな助言を受ける。「聞いたことは1度自分に取り入れて、そこから必要ないと思ったものを外していく感じです」と自らの判断軸で、取捨選択ができる。「聞いたこと全てが正解ではない。もっといろんなことに取り組んで、自分がどれだけ早くプロの世界に慣れるかですね」。向上心あふれる24歳の成長は止まらない。

ベテラン福留の出場選手登録抹消もあり、一時は暗雲も漂った。だが、この日は4回に新顔が切り開いた好機から一気に3点を奪って逆転。先発野手全員安打も呼び込み、土曜日の連敗も6でストップしてみせた。矢野監督は「大きく流れを変えてくれた。リズムに乗って走る勇気は止まってしまう。近本が多く走者に出ることがウチの野球」と存在感をたたえた。

この世界は、相手に嫌われてなんぼ。警戒された方の勝ち。「相手に嫌な影響を与えていきたい。プレッシャーをかけていきたいですね」。一時は落ち込んだ近本が、またスタートを切った。【真柴健】