阪神の近本光司外野手(24)がプロ初のサヨナラ打で連敗を6で止めた。球宴後初めて甲子園で行われたヤクルト戦。3-3と追い付かれた直後の9回1死三塁、ドラフト1位がきっちり犠飛を打ち上げた。球宴で史上2人目のサイクル安打を達成したヒーローが「キン肉マンDay」に今季7度目のサヨナラ勝ちを呼び込み、再びヒーローになった。

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勢い冷めぬ甲子園が、さらに熱を帯びた。プロ入り初のサヨナラ打。歓喜のウオーターシャワーを浴びる近本は誇らしげだった。

「何度目かのサヨナラの場面で打席に立って、今までは最低限の打撃と考えていたけど結果的にダメだったので。しっかりタイミングさえ合えば(打ちに)いこうかなと」

舞台は9回に巡ってきた。代打北條の二塁打を足がかりに作った1死三塁のサヨナラ機。「最初、三塁に北條がいたんで、ここはなんとしてもヒットじゃないとダメだなと思ってました」。お立ち台で笑ってちゃかしたように、同学年の北條に代走江越が送られた。「ヒットじゃなくても、犠牲フライでも江越さんなら(本塁に)かえってくれるので(打球の)距離を出そうかなと」。左腕ハフから逆方向の左へ連敗を止める飛球を打ち上げた。近本は目尻を下げ「やっと勝てたかなと思いますね…」とほっとした表情を浮かべた。

勝っても負けても、明日は来る。それはどんなヒーローでも同じ。諦めない。「キン肉マン」とコラボした試合。日本を代表する人気漫画の主人公も不屈の精神で闘い続ける。近本はテレビなどであまり見る機会はなかったというが、それに負けない働きっぷり。筋骨隆々のキン肉マンの体格と比べて「全然ですけど…」と控えめだが、最後は6連敗を止めるヒーローになった。

それまでの打席でも打ったからこそ生まれた一打だった。6回、8回と先頭打者でヒットを放って出塁し、塁上から相手にプレッシャーをかけた。「自分の仕事がそれまでにできていた。あの場面で(それが)できていなくて打席に入っていたら心境も違ったと思う」。そんな近本を後押ししたのが、新設された応援歌が。本拠地で初演奏され、「打席で聞いてしまうところもあった。本当にいいなと」とファンに感謝した。

矢野監督からの信頼も絶大だった。9回の攻撃について「選手もほとんど使い果たしていた。江越の代走もどうしようかなと迷った。『近本、決めてくれ』という気持ちだけで応援しました」と全てを託した。諦めたらゲームセット。迷いは捨てて、がむしゃらに進むのみ。「野球ってほんとに最後まで分からないスポーツだなと思ったんで、そういうところが野球の面白いところかなと」。球宴でもサイクル安打を達成した阪神のヒーローは、ギブアップなんてしない。【真柴健】