例えば、あなたは講演会に行ったら何列目に座りますか? わが身を振り返ると興味があるテーマでも、気恥ずかしくて最前列なんて座れない。中途半端な3列目とか4列目にそそくさと座るのだが、成功者が言うには「最前列に座れ!」だとか。『年収1億円になる人の習慣』を著した山下誠司さんが紹介している。

さて、阪神2軍キャンプ地の高知・安芸にいる。先日、元中日で臨時コーチを務める山本昌さんが講義したので会議室に行ったら、最前列にルーキー6人がズラリ。そもそも趣旨が新人対象なので、当たり前なのだが、その心意気やよし。で、収穫はあったの? 1時間20分ほどのトークで、心に引っかかったことを尋ねたのだが、個々の感性がにじみ出ていて興味深い。

図らずも声をそろえたのがドラフト2位井上と5位藤田だった。井上が「『野球にウソをついてこなかった』というのが心に残っています」と言えば、藤田も「『野球にウソをつくな』と言われました」と明かした。甲子園3発を放ったスラッガーの井上は「練習でごまかしてやってしまってもおかしくない。以前より、考え方が1段、高くなりました」と感謝。大船渡・佐々木(現ロッテ)の163キロを捕った藤田も「僕もちょっとしたキッカケを大事にしたい」と話す。

濃いひとときだったようだ。山本昌さんが開花したキッカケはプロ5年目。戦力外目前の米国留学中の話だ。「アメリカで何かをつかまなかったら終わり」。1Aの同僚野手がスクリューを投げるのを見て、教えを請うた。新球あればこそ球史に名を刻む大投手に駆け上がった有名な逸話だ。ヒントは、どこにあるか分からない。探究心を持ち続ける大切さを説いていた。

プロ級の腕前を誇るラジコンでは、超一流の人のしぐさに気づかされた。レース環境など、研究した細かい内容をメモで書き込んでいたという。当時の野球界はまだ先進的ではなく、情緒的。趣味すらも、自らのフィールドと結びつけて考えて、野球を突き詰めた。この日は平田2軍監督や和田テクニカルアドバイザーらも参加。球団挙げた、2度目の臨時コーチ招へいは貴重な財産になっている。

育成1位小野寺の琴線に触れたのは「悔いは残していいけど、後悔はするな」だった。勝負事で敗れれば悔しさが募るのは当然だ。「(練習で)あと1球、投げておけばとか、あと1本、走っておけばとか、そういうことがないように…。あれだけ長く野球をされた方。自分も長く野球をやりたいですから」と続ける。山本昌さんの歩んだ足跡は後輩の進む道を照らしていた。野球と真正直に向き合い、前のめりに“年俸1億円”へと攻めていく。