極めて自然に、熱い感情が右拳に乗り移った。阪神大山悠輔内野手(26)は土壇場で試合を振り出しに戻した直後、一塁側ベンチに向けてガッツポーズを決めた。衝撃的な逆転勝利の裏には4番の意地があった。

「1打席目と2打席目、自分が流れを止めてしまっていた。みんながつないでくれたチャンスを、いい流れができるところを自分が止めてしまっていた。なんとかやり返さないといけないという気持ちでした」

2点ビハインドで迎えた9回表。3番マルテの右前適時打で1点差に迫り、なお1死一、三塁。1ボール2ストライクから右腕ギャレットの低めスプリットにバットを伸ばし、ライナーで左前に持っていった。値千金の同点打で6番佐藤輝の勝ち越し3ランを呼び込んだ。

1回1死一、三塁、3回無死一、三塁で凡退。同点の7回2死一、三塁では森脇から一時は勝ち越し打となる1本を左前に運んでいたが、それだけで納得できなかった。背中の張りから1軍に戻ってきて4戦目。復帰後初タイムリーから2打席連続適時打で仲間を鼓舞し、「投手も含めて全員で勝ち取った勝利。すごくうれしい」と力を込めた。

「比べるのは昨日の自分」。矢野監督が常々口にしてきた言葉を大事にする。「昨日できなかったことが今日できれば1歩進んでレベルアップ。それをどんどん積み重ねていくことで成長できる」。この日の試合後もすぐさま次戦以降を見据えられる冷静さがある。

「試合が始まってしまえば、打順も4番も関係ない。どこでどういう仕事をするか。勝つために全力を尽くすだけ。しっかり仕事ができるように頑張ります」

一言一句からほとばしる主将の責任感が、勝負どころでチームを落ち着かせている。【佐井陽介】