逆転優勝の使者が現れた。ソフトバンクのリチャード内野手(22)がプロ初アーチを豪快な逆転グランドスラムで飾った。

プロ初安打を放った前日4日に続き「7番三塁」でフル出場。1-2の4回1死満塁でオリックス増井からペイペイドームの左中間席中段へ運んだ。7回にも左翼へ2号ソロを放ち、計6打点。チームを連勝に導いた。右の大砲候補が5年連続日本一へ起爆剤になる。

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リチャードの予測は変化球だった。「フォークかスライダーだろうな」。1点ビハインドの4回1死満塁でフルカウント。増井が投じるのは、沈むボールか、外角に逃げるボールか。しかし不意を突かれ、内角に149キロ直球。「なんか、なんか、『あっ…』って感じだった。逆を突かれたけど、うまいこと振れたなと」。とっさの反応で腕をたたみ、左中間席中段に向かってアーチを描いた。

「いやもう、ただただうれしいですよね。逆転だったので本当にうれしかったです。本当に良かったです。うれしかったです」

プロ1号が逆転満塁本塁打という事実に興奮を隠せない。ベンチ前では自主トレで師事する西武山川の「どすこい」ポーズを興奮気味に繰り出した。育成時代からキャンプなどで熱血指導をしてきた王貞治球団会長(81)も、リチャードの殊勲の一打に舌を巻いた。

王球団会長 アウトローにいいスライダーが来なきゃいいなと思っていた。それはリチャードじゃなくても打ちにくい。向こうも四球を出すわけにはいかないから思い切り投げてきた。それを甘かろうが際どかろうがホームランを打ったのは事実。やっぱりこの世界は打ったもんが勝ちだから、あそこで打ったリチャードが大したもんだよね。

未来の大砲候補として期待する秘蔵っ子が華々しい活躍を見せ、「若手が元気だからいい形になったね」とご機嫌だった。

2回には中犠飛でプロ初打点。さらに7回先頭では、バルガスの内角152キロ直球を左翼席へ2号ソロ。体に近い位置にきた直球を1日に3度も仕留めた。工藤公康監督(58)も「外の変化球に意識があれば詰まりそうなところ。あれを詰まらないでしっかり持っていくのは、やっぱりパワーがあるなあと思いました」。2本塁打、6打点をたたき出した若鷹に脱帽した。

リチャードの号砲が12安打12得点の大勝を呼び込み、チームは2連勝。1週間前に2敗1分けと負け越したオリックスに本拠地では2勝1敗とやり返した。7、8日は5位西武と2連戦。リチャードにとっては師匠・山川との初対決だ。「師匠がいるんですけど、そんなのは関係なくみんなでかかっていけば勝てる」。育成出身の大砲が、逆転優勝へ弾みをつけた。【只松憲】

 

◆リチャード(砂川=すながわ=リチャード)1999年(平11)6月18日、沖縄県生まれ。沖縄尚学から17年育成ドラフト3位でソフトバンク入団。父オブライエン・ジャンさんは米国人、母あけみさんは日本人。支配下登録された20年はウエスタン・リーグ72試合に出場して12本塁打、47打点で2冠。オフに西武山川らと故郷・沖縄で自主トレを行った。今季推定年俸660万円。189センチ、119キロ。右投げ右打ち。