「4年後プロ ドラフト1位」。巨人から1位指名された中大の西舘勇陽投手(4年)が19年12月、花巻東(岩手)のグラウンドにある監督室で記した決意表明だ。

黒いマジックと色紙を記者が差し出すと、なかなかキャップを開けない。「どうしよう…。何て書こう」。5分くらい悩んだ。最初は「中央大学のエース」と書き始めた。でも、やめた。記者が「あと3枚あるから何度でも」と伝えると、「よしっ、決めました」。真っ白な歯を見せたあと、表情は一変した。マウンドに立つ表情に似ていた。力強く記した。最後に、なぜか太マジックから細マジックに。小さく右下に名前を書いた。少し人見知りで、照れ屋で、控えめな男らしい、立派な色紙が完成。「有言実行にして、監督さんやお世話になった方々に恩返ししたい」。偉大な先輩の大谷翔平、菊池雄星のユニホームの前で貴重なショットを記念撮影した。花巻東の佐々木洋監督も「あの時は『そんな大きなこと書いて大丈夫か』と思ったけれど、本当になっちゃいそうです。すごい」と当時を懐かしみながら、喜びをかみしめている。監督室に今も飾ってある教え子の色紙を誇らしく見つめながら。

ロッテ佐々木朗希投手とは同県出身同学年。「令和の怪物」よりも先に、大谷の背中を追う「新怪物」と呼ばれていた逸材だった。高3夏は岩手大会決勝で花巻東VS大船渡の対戦も投げ合うことなく終わったが、色紙に記した時から「負けられない」。ライバル心は今も変わらない。

高校時代の逸話も、まさに怪物級だ。“行方不明事件”は温厚でマイペースな性格そのもの。腰痛の治療のため、学校の寮から青森県内までの通院途中で音信不通に。両親や野球部関係者が懸命に捜索すると、乗換駅で発見された。「乗り継ぎに迷って…。疲れて寝ちゃっていました」。携帯もマナー徹底で電源をオフにしたまま、駅のベンチで起こされるまで熟睡していた。花巻東の鎌田茂コーチも「あいつはタヌキやキツネとも会話できるんですよ」と冗談を交えながら証言するほど、自然の中で育った天然“怪物”だ。

ドラフト会議で2球団から指名され、巨人に導かれた。投手としては“怪物”に成長しつつあるが、大都市の球団は大丈夫なのか…ちょっと心配。あの日の色紙が、ついに現実となった。【17~20年東北6県担当、現ロッテ担当・鎌田直秀】