<コナミ日本シリーズ2013:楽天2-4巨人>◇第6戦◇2日◇Kスタ宮城

 巨人高橋由伸外野手(38)が、無敵だったマー君に黒星をつけた。同点の5回2死一、三塁で、追い込まれながらも決勝の中前適時打。過去3本塁打の楽天田中キラーが、もう負けられない日本シリーズ第6戦の大舞台で真価を発揮し、3番指名打者での起用に応えた。

 言葉にならない雄たけびが試合後のロッカー室にうずまいた。絶望のふちから生還した男たちの目は血走っていた。その中でも冷静さを失わない高橋由がいた。「明日も、もちろん負けられない」。最終決戦へとすでに切り替えていた。

 野球に絶対はない。沈まぬ右腕、田中を沈めたのは高橋由だった。5回。2点差を追いつき、なおも2死一、三塁。150キロ台連発で追い込まれる。だが内角要求の149キロ直球がシュート回転して甘く入った。逃さない。鋭く振り切る。バットに剛球が食い込む。詰まっても執念が上回る。不敗の右腕が昨年8月19日の西武戦以来味わう1イニング3失点目が決勝打だ。「みんながつないでいい形で回してくれた。難しい相手だったが、いい意味で開き直った」。球界を生き抜いてきた38歳の思いが勝った。

 絶体絶命の一戦。王手をかけられ、今季公式戦、ポストシーズン合わせて26勝無敗の田中が相手。巨人が負けると予想された戦い。だが希望の光があった。田中にわずか1得点に終わった第2戦の試合後。高橋由は「みんなに『マー君が由伸さんを嫌がっているように見えた』と言われた」と明かした。

 リーグ戦では通算13打数3安打もすべてが本塁打。田中から3発はセ・リーグで最多タイ、両リーグを通じても2位タイだ。第2戦は2打数無安打も痛烈な一直に高速ツーシームを悠然と見逃した。仲間に勇気を与えたベテランがシリーズ11打数1安打も、3番で起用され、田中を打った。

 巨人の未来を常に考えている。9月中旬。阿部と久々に会食した。帯状疱疹(ほうしん)にかかっていたため、酒は口にしなかったが、ウーロン茶を飲みながら、約3時間、語り合った。その中で左打者の系譜の話題になった。

 阿部

 今後の巨人の課題は当たったら、どこまで飛んでいくか分からないという左の大砲がいないこと。松井さんが引退して、由伸さんがいなくなって、僕が衰えたら、いなくなる。

 高橋由

 言われてみれば、そうなんだよ。ずっと松井さんらが引っ張ってくれた。誰か出てきてほしい。

 後を託せる打者が出てきてほしいと願う気持ちもある。だがまだ巨人の左の強打者としての金看板を下ろすつもりもない。田中との歴史的な戦いで、存在感を見せつけた。

 崖っぷちから逆王手をかけた。40年ぶりの日本一連覇がはっきりと見える。「ずっと目標としてやってきた。明日、僕らのすべてを出したい」。歴史を必ず刻む。【広重竜太郎】