市民にとって、力士は動くパワースポットのような存在なのだろう。1月の初場所で初優勝した栃ノ心は、直後の2月3日、節分の豆まきに参加した際、約200人もの赤ちゃんを抱っこしたという。力士に抱っこされた赤ちゃんは丈夫に育つという、古くからの言い伝えにならい、多くのママさんから頼まれた。中でも優勝したばかりの力士となれば、最高に縁起がいいと思うのも当然。休みなく抱っこしては記念写真を撮影を繰り返す時間が続いたが、栃ノ心は「いいトレーニングになったよ」と、笑って振り返った。

 また横綱土俵入りには、地鎮と邪気を払う効果があると古くから言われている。11年6月に日本相撲協会として行った、東日本大震災の巡回慰問で被災地を回った際には、当時1人横綱だった白鵬が、連日2カ所の慰問先で土俵入りを披露した。岩手・山田町の関係者からは「土俵入りの後は、3月11日以降毎日続いていた余震がおさまった」との連絡が入った。当時の白鵬は「そう思ってもらえただけで慰問した意味があった」と喜んだ。神事の側面が強い競技だけに、古くからの言い伝えも多く残っており「ありがたい」と思われる機会が多い点は、他のスポーツと大きく異なるところだ。「お相撲さんは気は優しくて力持ち」という理想を求められる。

 だからこそ、元横綱日馬富士関による暴行事件から始まった一連の不祥事への世間の目は厳しい。パワースポットだと信じ、時間もお金もかけて休みの日に出向いたのに、後から「そんな効果はまったくありません」と言われたら-。裏切られた気持ちが強くなるはずだが、今の市民の感情は、それに近いような気がする。花道を入退場する際に、体に触れるだけで御利益があるように思われる存在であり続けてほしいからこそ、厳しい目を向けられる。

 2月に日本相撲協会が行った研修会に、講師として招かれた箱根駅伝4連覇を達成した青学大陸上部の原晋監督は「箱根駅伝も注目を浴びるがその代わり、逆に何かやらしかたらバッシングをされる。なぜなら多くの皆さんに愛されているから。皆さんも多くの皆さまに愛されているんです」といった内容を、親方衆や力士に向けて話した。注目度が高い分、自ら襟を正していく必要性を訴えた。

 本気で更生しようとする姿が見える人に、バッシングを浴びせるほど世間は冷たくないと思う。世間から見放され、バッシングも浴びないような状態になることこそ、本当の意味で相撲界の危機。本場所では満員御礼が続き、人気を維持しているようにも見えるが、表面上のものかもしれない。今が今後を左右する正念場と思って、本気で変わろうとする姿を見せなければ、親しみのこもった「お相撲さん」という呼び方さえも、将来は死語になってしまう可能性がある気がしてならない。【高田文太】