第92回アカデミー賞授賞式が9日に米ハリウッドのドルビー・シアターで行われ、韓国の「パラサイト 半地下の家族」が、外国語の映画として史上初となる作品賞に輝き、最多4冠を達する快挙を成し遂げました。ポン・ジュノ監督は監督賞、脚本賞を受賞した他、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)も受賞。外国語の映画が作品賞を受賞するのは初めてであるだけでなく、同一作品が作品賞と国際長編映画賞を同時受賞するのも初。昨年のアカデミー賞で作品賞と外国語映画賞の同時受賞が期待されたアルフォンソ・キュアロン監督のメキシコ映画「ROMA/ローマ」が成し遂げられなかった歴史的快挙に、「壁が動いた」と多くの人が感じる授賞式となりました。

人種的多様性の欠如、白人至上主義などの問題を長らく抱えてきたアカデミー賞は2015年に俳優部門にノミネートされた俳優20人全員が白人だったことから「白すぎるオスカー」と揶揄されて物議を醸し、黒人など有色人種や女性監督がノミネートされにくい体制が問題視されたことを受けて、近年は多様性を重視する取り組みが行われてきました。それでも、今年もノミネーションが発表された際には「ストーリー・オブ・マイライフ」でメガホンを取ったグレタ・ガーウィグ監督が候補から外れ、監督賞の候補すべてが男性だったことにも失望の声があがっていました。

「パラサイト」でアカデミー作品賞受賞が決まり喜ぶポン・ジュノ監督と出演者たち(AP)
「パラサイト」でアカデミー作品賞受賞が決まり喜ぶポン・ジュノ監督と出演者たち(AP)

そんな中、下馬評で優勢と見られていたサム・メンデス監督の「1917 命をかけた伝令」やクエンティン・タランティーノ監督の、60年代後半のハリウッド映画の黄金期の光と闇を描いた「ワンスアポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」、巨匠マーティン・スコセッシ監督のネットフリックス映画「アイリッシュマン」といったそうそうたるハリウッド映画をさしおいて、作品賞に輝いたのは韓国映画「パラサイト 半地下の家族」でした。数年前のアカデミー賞では考えられなかった快挙に、監督賞を受賞した際にポン・ジュノ監督は「国際映画賞を受賞して、これで今日の出番は終わりだと思った」とスピーチ。会場にいるスコセッシ監督を壇上から見下ろし、「映画の勉強を始めた頃に本で読んで今も大切にしている言葉があります」とスコセッシ監督の「最も個人的なことは、最もクリエイティブなこと」と言う言葉を引き合いに出し、同じ舞台に立って一緒に監督賞にノミネートされたことへの謝辞を述べると、会場からは大きな拍手が沸き起こり、スタンディングオベーションとなりました。そして大トリである作品賞でも再び「パラサイト」の名前が呼ばれると、会場からは歴史的な快挙を祝福する拍手が大きく鳴り響き最高の盛り上がりを見せました。

しかし、まだ課題は多く残っています。「パラサイト」は全米俳優組合(SAG賞)で最高賞にあたるアンサンブル・キャスト賞も受賞していますが、俳優部門には一人もノミネートを果たすことはできず、失望の声もあります。また、脚色賞のプレゼンテーターを務めたナタリー・ポートマンが、「素晴らしい仕事が認められなかった女性のヒーローたちを私なりの方法で称えたかった」と、この日着用した金と黒のシースルーのドレスの上に羽織った黒いケープに女性監督たちの名前を刺しゅうして登場して業界の人たちへの意識改革を訴えるなど、女性監督が活躍できる場の提供も求められています。

それでも「パラサイト」が異例の史上初づくし4冠の快挙の裏で、最多11部門にノミネートされた「ジョーカー」はホアキン・フェニックスの主演男優賞と作曲賞の2冠に終わり、10部門に名を連ねていたスコセッシ監督の「アイリッシュマン」に至っては無冠という結果を受け、アカデミー賞の歴史が大きく塗り替わったことを感じるには充分すぎる一夜となりました。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)