昨今の女性アナウンサーの声が高いのは、本人が“ぶりっ子”であるとは限らず、時代背景や社会情勢に大きく影響され、また、目標とする先輩の声に似てしまう「ミラーリングシステム」が働くことを、前編でご紹介しました。では、女性アナウンサーの声は平均的に高いままでいいのでしょうか? トーク編第40回、今回は「女性アナウンサーの声、社会への影響と改善策について」です。

 ■致命的で打算的で体調悪化■

 女性アナウンサーの声が高いと、どういうことが起こるでしょうか? 再び、声と脳の専門家・山崎広子先生に取材しました。

 まず、アナウンスが落ち着いて聞こえないという、アナウンサーにとって致命的な現象が起こります。キンキンするのが耳障りになると、伝えたい内容が伝わりません。また、過剰に高い声は、声変わり前の小・中学生のようにも聞こえます。大人の女性が子供を演じている状態です。それは“保護されるべき弱さ”を演出しているようにも見え、目上の人や男性に甘えているように映り、打算的でずるい印象を与えます。本人にその気がなくても。

 また、喉頭を締め上げて高い声を出すのは、本人の体調にとってもよくありません。声帯に結節やポリープができやすくなります。

 ■世に声の高い女性が増え続ける■

 ではテレビやラジオで女性アナウンサーの高い声が流れ続けると、世の中はどうなるでしょうか?

 視聴者・聴取者の中には、女性アナウンサーに憧れてくれる方もいます。そうするとミラーリングシステムによって、その方の声が高くなります。するとその人の周りの人の声も高くなり、さらに環境音フィードバックも加わって、声の高い女性は増え続けることになります。

 ■社会不安がある時ほど落ち着いて■

 人々の声が高くなるのは、戦争や不況や金融危機、大災害などによって社会が不安定になる時です。第2次世界大戦直前の各国首脳の声の高さは、ラジオなどの音声メディアを通じて、言い知れぬ危機感を植え付けました。

 喉を絞め付けた高い声は、聴いている人の脳でストレスホルモンを生じさせ、不安感を起こさせます。

 女性に限らず、日本に声の高い人が増え続ければ、社会の不安をあおり、経済がどんなに上向きになっても、なんとなく不安で、お金は使わず貯金しよう…と、こうなる可能性があるわけです。

 ■注意!無理して出す低い声はダメ■

 この負のスパイラルから抜け出すために、社会不安があるときほど、女性アナウンサーは低く落ち着いた声で話すべきなんです。それも“その人なりの”落ち着いた声で。

 番組によっては、ニュースを落ち着いて聞かせるために、過剰に低い声を求めるところがあります。本来の地声の音程よりも、無理に低い声を出そうとして、声が出なくなってしまった新人アナウンサーが、少なからずいます。これはとても怖いことです。 地声の音程を見つけるひとつの方法をご紹介します。

 ■本邦初公開!地声の音程発見法■

 手を頭に置いている時は高い声でしゃべる、手を腰に置いている時は低い声でしゃべる、手を胸に置いている時は中間でしゃべる、そうして、自分が楽に出せる高さを見つける手法です。録音してチェックしてみると、より自分の声の高さに客観的になれます。

 これは私のトークレッスンの生徒で、声が高すぎる新人声優に提案した練習法で、山崎先生からは「手の位置と声の高さを対応させるというのは、声の高さを対応させて意識するひとつのスイッチになり得ると思う」と言っていただきました。

 また、「手を上げることによって首回りにも力が入るのでよけい高い声になりやすく、自然に手を下ろすことで首回りの力も抜け、その感覚と低い声が対応できるのもとてもいいと思います。力を入れずに腰に手を添えると、呼吸も安定します」と教えていただきました。

 出しやすい音程は人によって異なります。その人なりの落ち着いた声でアナウンスすることが、社会にとって、視聴者・リスナーにとって、そして何よりアナウンサー本人にとって、とても大事なことなのです。

【五戸美樹】(日刊スポーツ・コム芸能コラム「第64回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)

 【参考図書】山崎広子先生の著書『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)、『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』(角川新書)、『人生を変える「声」の力』(NHK出版)。

 ◆山崎広子(やまざき・ひろこ)国立音楽大学卒業後、複数の大学で音声学と心理学を学ぶ。音が人間の心身に与える影響を、認知心理学、聴覚心理学の分野から研究。音声の分析は3万例以上におよぶ。また音楽・音声ジャーナリストとして音の現場を取材し、音楽誌や教材等への執筆多数。「音・人・心 研究所」創設理事。NHKラジオで講座を担当したほか、講演等で音と声の素晴らしさを伝え続けている。