日本映画では数少ない本格的ミュージカル映画で、突き抜けた演技を見せている。女優三吉彩花(23)。主演映画「ダンスウィズミー」(16日公開)は、そのハードルの高さを崩すべく、ミュージカルコメディーにした挑戦作。海外映画祭ではすでに高評価を得ている。レッスンだけで2カ月もかけたダンスは、手足の長い彼女の魅力をアピールする。今作との出会いに加え、モデル業との両立について聞いた。

★「手応えなくて…」合格

「ミュージカル」という言葉は、何となくハードルの高さがある。それを取り払うべく、催眠術により勝手に踊り出す設定となった。だが、三吉自身は催眠術には眉唾だ。

「私は半信半疑なんです。でも、実際にやしろ(優)さんが現場でかかっていて。たまねぎを食べるシーンがあって、皮まで食べなくてはならないし、生で食べたら辛いじゃないですか。それで、本当の催眠術師さんが『これ甘いリンゴにしてあげる』と指をパチンと鳴らしたら、バクバク食べているんです。あのシーンは本当に催眠術にかかっての撮影なんです。それを見ているとすごいなと思うんですけど、自分が実際にかかるかどうかは…。本当に甘くなるのか、かかってみたいかな(笑い)」

設定はとっぴだが、日本発の本格的ミュージカル作品として、すでにカナダ、上海など海外映画際で高評価を得ている。

「カナダでは監督賞と観客賞を頂きました。そういう反響があると、これから日本で公開するのに少し自信になります」

主演の座はオーディションで勝ち取った。不機嫌そうにしていた顔つきが監督の目に留まったようだ。

「あれは、すごく緊張していて、笑ったりする余裕がなかったんです。幼少期の方がガッツがありました。今はいろんな役を経て、監督にどう見られているのかとか、いろいろ考え過ぎて、かえって緊張してしまうんです。今回のオーディションは手応えを全く感じてなくて。受からなかっただろうな、と思っていたのでビックリしました」

合格の喜びもひとしお。そこから地獄のダンスと歌のレッスンが始まった。

「ダンスは幼少期に少しだけ、歌はさくら学院時代の2年間だけでした。だから受かってからの2カ月くらいが一番つらかったですね。練習は1人なので、精神的にもきつい。でもその期間があったから、撮影に入ってからは気持ちに余裕がありました」

ミュージカルシーンでは全力で踊り、随所で体を張る。中でも山本リンダの「狙いうち」をバックに踊るレストランシーンは印象的にとどまらず破壊的だ。

「だいぶやらかしちゃっていますよね(笑い)。実はあのシーンだけで4日間もかけているんです。とてもてんこ盛りでした。シャンデリアのシーンは別のスタジオで高さと揺れを検証したのですが、結構高くて怖かったです」

全力で踊った結果のパンチラシーンは、セクハラかもしれないが男性ファンのハートをつかみそうだ。

「あれはわざとだと監督は言ってましたけど(笑い)。あそまで回るシーンはほかにないので、そこはちょっとねぇ、みたいなことをおっしゃっていました」

ミュージカルばかりに目が行きがちだが、テーマとしては人としての成長も描かれている。

「自分らしさや人生をより楽しむための選択を静香は探しています。見る人が、自分ならどうするだろう、と考えられる映画でもあります」

★「やっとスタート地点」

小1の時にモデルデビュー。三吉が演じた静香は小学校時代のトラウマでミュージカルが嫌いになったという設定だ。三吉自身にトラウマはあるのだろうか。

「ん~。なんだろう。あまりないですかね。ずっと大人の方と一緒にいて、トラウマと捉えればあるかもしれません。でも、あまりマイナス思考にならないので。むしろ最近の方がトラウマになった(番組の)収録はあったけど、今は言えません(笑い)」

映画「グッモーエビアン!」(12年公開)ではヨコハマ映画祭などで新人賞を受賞した。今作でも、はじけた芝居ぶりに、一皮むけたのではと高評価の声が多い。

「評価していただけたらうれしいですけど、賞にこだわっているわけではないです。アカデミー賞とかすごく大きな賞で、そういう賞に認められるのは日本中のみなさんに見ていただいている作品という証しにもなります。だから、いずれそういう作品にめぐりあって、そういう賞をいただける女優になれるように頑張ってはいます。でも、今はやっとスタート地点に立ったような気持ちなので、まだそこまででは。地道に作品を重ねていきたいです」

モデルと女優。どちらかに軸を置くのか。両立させているのだろうか。

「女優メインというわけではありません。モデルと女優を並行してやっていくつもりですので、時期によって偏りは出てくると思います。今年と来年は、特に公開作が多く控えているという感じです」

演じる役とは共通点がない方が演じやすいのか。

「今回は監督の中に鈴木静香像が出来上がっていたので、監督が求める理想像に近づけていこうという気持ちだけで役と向き合っていました。自分と共通点があっても演じやすいけど、ただ自分と重なる分、苦戦することもあります。役なりの微妙なニュアンスの違いとかが、結構難しかったりして。役には入り込みやすいけど、考え過ぎちゃうんです」

役者として、やりたい役はない。むしろ自分のために演じているという。

「どういう役をやりたいとか、固定していることはありません。自分に必要な役だったり、自分が演じることで見ている人にどういう影響を与えたりとか、どういう印象を与えるかやメッセージ性がどれくらい強いかを重視しています。自分が必要な役であればどんな役でもやっていきたいと思いますし、国内だけでなく、海外にもどんどん出ていきたい。そこは幅広く、振り幅を見せていきたいなと思っています」

メディアを通じて、寡黙で真面目な印象をもっていた。だが、実際の彼女は一言一言をしっかり考えながら、自分の言葉として発言する。大風呂敷を広げず、地道にコツコツと努力をするその姿勢に、将来の可能性を感じざるを得ない。

▼オーディションで主演に選んだ矢口史靖監督(52)

三吉彩花さんの初対面の印象は「つまらなそうにしているな」でした。でも、オーディションが始まって歌とダンスになると表情が変わり、華やかで明るく、楽しんでいるようにさえ見えました。それは、主人公・静香に求めていた“変身”そのもの。静香は自分の意思とは関係なく、音楽を聞くとミュージカルしてしまう体質です。1秒前まで日常だったのに、音楽が鳴った途端に非日常のミュージカルが始まる。そして音楽が止まった途端に「やっちまった!」と苦悩する。このギャップこそヒロインに求めていたものです。

◆三吉彩花(みよし・あやか)

1996年(平8)6月18日、埼玉生まれ。小1で読者モデルになり、9歳でスカウトされアミューズに所属。07年テレビ朝日系「オトコの子育て」で女優デビュー。08年に「うた魂♪」で映画デビュー。10年4月にはさくら学院メンバーとなり、同年8月「セブンティーン」の専属モデル。13年公開の映画「旅立ちの島唄~十五の春~」で映画初主演。171センチ、49キロ。血液型B。

◆「ダンスウィズミー」

一流商社勤務の勝ち組OLだが、幼少期のトラウマでミュージカルを毛嫌いする鈴木静香(三吉彩花)が、音楽が鳴ると勝手に踊ってしまう催眠術にかかってしまう。催眠術師助手の千絵(やしろ優)とともに催眠術師の行方を捜すロードムービー。

(2019年8月4日本紙掲載)