星組トップ娘役綺咲愛里(きさき・あいり)がトップ紅ゆずると同時退団する「GOD OF STARS-食聖-」「エクレール・ブリアン」は、本拠地公演も終盤に入った。紅と同時就任で、トップ娘役2年半が過ぎた。「180度変わった」と実感する。関西出身のトップコンビは、笑い満載の芝居で添い遂げる。兵庫・宝塚大劇場は19日まで。東京宝塚劇場は9月6日~10月13日。東京千秋楽をもって退団する。

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本拠地との別れも近づいた。稽古の時点から、周りの空気が普段とは違った。

「同期や周りの方々がやたらと、写真を撮ってくださる。『何げない日常を』って。ジーンときてしまうときもありましたね」

感慨にふける暇はなかった。芝居は大阪出身の紅、兵庫出身の綺咲による関西コンビのコメディーだ。

「今までで一番、強くてひたむき。戦闘も強い。見ていて気持ちのいい思い切りのある女性。セリフも男勝り。それもまた初めての挑戦。最後まで、いろんな挑戦をさせてもらえた」

トップ娘役に就いた当初、紅からの問い掛けに「はい」「いいえ」以外は返せなかった。それがいまや、紅も「聞いてないのに、自分のことをしゃべる」と苦笑する成長ぶり。

「丁々発止。紅さんと言い合いをする場面もあって、おけいこ場から明るく、楽しく、でも真剣に。相手役当初ならできなかった。(紅が)普段から気にかけて優しく接してくださるので、私も、恐れながら…」

綺咲は3年目だった12年、紅のバウ主演作「ジャン・ルイ・ファージョン」で、妻役に抜てき。8学年差ながら、紅との縁は濃く、相手娘役に迎えられた。

「私なんか-と思いつつ、もがいていると、スッと手を差し伸べ、助言をくださる。それは、組の皆にも同じ。1人1人に合った言い方で。昔からスーパーマンのようで、私にとって宝塚人生のすべてです」

さりげない優しさに感謝。紅を「スーパーマン」と表現した。人としての心得も紅から学んだ。同時退団も「何があっても最後までついていく」と、当初から決めていた。「笑顔でサヨナラ」も紅と同じ思いだ。

「星組を継がれる皆へバトンタッチのような気持ちで。しんみりせず、次へつなげる。さゆみさん(紅)らしい。ご一緒できてうれしい」

娘役としての立ち居振る舞い、着こなし、髪形、アクセサリー選び、人としての接し方も、後輩に伝えて去る覚悟だ。後任の舞空瞳は花組から組替えしてきたばかり。新人公演は綺咲が本役のヒロインを務めた。

「すごくかわいらしい子。あのまま、かわいく、伸び伸びと、きっと務められると思う」。その舞空を迎える次期トップ礼真琴は綺咲の1年先輩。宝塚音楽学校時代の上級生だった。

「琴さんとは新人公演もご一緒させていただき、思い出もたっぷり。琴さんの星組が、どんなカラーを生み出すのか。1歩離れて見るのがとても楽しみ」

10年の節目に去る。

「宝塚の中で娘役で10年いられたことは、大きな財産。お芝居に携わった10年は大きい。ドラマ、映画とお芝居の見方も変わった。この10年を大切に思い続けていきたい」

退団後には考えが及ばない。「最後まで宝塚でやり尽くしたい。今はただ、組旅行どこに行く? とか。そんなことばっかり、考えています!」。そう言って笑った。【村上久美子】

◆ミュージカル・フルコース「GOD OF STARS-食聖-」(作・演出=小柳奈穂子) 上海の「大金星グループ」のホン(紅ゆずる)は、高慢ながら、天才料理人として世界的に名を知られる。ところがある日、弟子リー(礼真琴)に裏切られ、築いた地位、名声も失い、シンガポールの下町へ流れつく。行方不明の父に代わり、食堂を運営するアイリーン(綺咲愛里)に助けられる。

◆スペース・レビュー・ファンタジア「エクレール・ブリアン」(作・演出=酒井澄夫)宇宙から地球に舞い降りた青年が世界を舞台に歌い踊る姿を描く。

天才料理人役の紅。対して、綺咲の最後の役柄は「気絶するほど料理が下手」な設定。ただ、実生活では料理が好きで、作品にちなんだ料理を作ることも。今回、クッキーを紅に渡す場面があり、稽古中には「クッキーを焼いて、さゆみさん(紅)に持って行った」そう。芝居の稽古で小道具のクッキーを見ていて「本当に渡したくなって、夜中に思い立って焼いた」ところ、紅は「おいしい」と喜んでくれたそうだ。

☆綺咲愛里(きさき・あいり)10月30日、兵庫県川西市生まれ。10年入団。星組配属。14年「The Lost Glory」で新人公演初ヒロイン。16年11月、紅のトップ就任と同時に相手娘役に。17年、初舞台作「スカーレット・ピンパーネル」で、本拠地お披露目。昨秋の台湾公演もヒロイン。身長163センチ。愛称「あーちゃん」。