16日に放送されたTBS金曜ドラマ「アンナチュラル」最終回の視聴率です(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。平均も2ケタをキープし、テレビ誌やデータ会社が独自に行う視聴者満足度調査でもずば抜けた高評価を獲得していた作品。最終回で自己最高を記録し、有終を飾りました。

 不自然死の死因を究明するUDIラボを舞台にした法医学ミステリー。深い化学知識をちりばめたわくわくするストーリー、魅力的なキャラクター、せりふの面白さが、単なる真相究明に終わらない分厚い人間ドラマにつながっていて、私も毎週夢中で見た1人でした。

 脚本は「逃げ恥」「重版出来!」などで知られる野木亜紀子氏。原作ものを扱ううまさで評価を積み上げてきた氏ですが、オリジナルでも圧倒的でした。紡ぎ出す物語には、決まりきったテンプレートをことごとく飛び越えてくる馬力があり、見たことない展開、聞いたことがないせりふがいつまでも胸に刺さる、神回の連続でした。

 1話から独創的で面白かったのですが、最初に視聴者満足度をはね上げたのは5話だったと思います。婚約者の死は自殺ではなく、殺されたのだと知った青年の話。やっと幸せをつかんだ若い2人に何の落ち度もないだけに、残された青年の痛みがよく分かるんですよね。お葬式で犯人を刺し、馬乗りになってとどめへ。主人公、三澄ミコト(石原さとみ)の「まだ間に合う」という言葉がさらに喪失感に火を付け、純朴な青年がナイフを振り下ろした結末は、ネットでも大きな話題となりました。

 「そんなことをしても死んだ人は喜ばない」みたいな説得で思いとどまるお約束ではたどり着かない光景で、命の重さがずしんときました。「思いを遂げられて本望だろう」という同僚医師、中堂(井浦新)にミコトが食ってかかり、正反対な2人を通して、受け手にさまざまな問題提起を残した回でした。

 7話で、いじめを「法律では裁けない殺人」と言い切ったのも骨太でした。命と引き換えに加害者の名前を告発しようとしている子に「彼らはきっと転校して名前を変えて、新しい人生を生きていく」と、いかに割が合わない行為かを具体的に示すアプローチ。「命の大切さ」とか「君は1人じゃない」みたいなベタなせりふにはない説得力に目からうろこ。「あなたの痛みは決して彼らに届かない」。ドライに見えて、いじめ題材でこれだけ血の通ったせりふに出会ったのは初めて。ドラマの力を感じた瞬間でした。

 最終回も、お約束をぶち破る野木ワールド。連続殺人犯は幼少期に母親の虐待を受けていたという、ドラマでは定番の“心の闇”を設定した上で「あなたのことを理解する必要なんてない。不幸な生い立ちなんて興味はないし、動機だってどうだっていい」と一刀両断。解剖医の立場だから言えるせりふとはいえ、犯罪でもいじめでも、やたらと加害者側の事情を手厚く描きたがるトレンドに違和感があったので、好きなドラマの最終回で、主人公がばっさりやってくれて痛快でした。過酷な幼少期を過ごしても、そこを言い訳にせず生きている人がほとんど。簡単に何かの予備軍として描かないプライドにも共感します。

 各話に張り巡らせた伏線をバリバリ回収する手腕もあざやかでしたし、コメディーとシリアスのバランスも絶妙。どんな絶望が描かれても、どこかに希望を感じる後味が毎回すてきでした。最終回は中堂でしたね。「クソ」を連発するこの人の性格に手を焼いてきた担当技師(飯尾和樹)が「スナフキンだと思えば愛せる気がして」。中堂の無愛想な性格も、無造作な髪形も、緑色の解剖服も、飯尾がムーミン好きなのも、全部ここへの伏線だったのですね。最後に亡き恋人の父親からもらった「夕希子の旅は終わりましたが、あなたは生きてください」という言葉も、中堂=スナフキンだと思えばなおさら感動です。

 中堂風に言えば、ほんと、全話クソ面白かったですね。3カ月あっという間でした。またこのチームに会いたいものです。4月期も、わくわくするドラマに出会えることを期待しています。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)