カンヌ映画祭コンペティション部門に出品された公開中の映画「光」(河瀬直美監督)のヒット舞台あいさつが10日、東京・新宿のバルト9で行われ、主演の永瀬正敏(50)と河瀬監督が登壇した。公開2週間で興行収入は約5000万円と、全国27館の上映規模にもかかわらず好調なスタートを切った。

 カンヌではエキュメニカル審査員賞を受賞した。現地では2人ともモテモテで、道を歩くたびに呼び止められたという。3度目のカンヌ映画祭参加だった永瀬は「こんなに忙しいカンヌはなかった。いつもなら、ふらっと写真を撮りに行ってたんですけど、道で呼び止められて(ファンに)熱く語られたり…。僕でさえ多いのに、監督は全然歩けなかった」と驚いていた。

 2人のタッグは15年「あん」以来2度目。再起用の理由を聞かれた河瀬監督は「ほれたからです。永瀬君のためではないですけど(笑い)。抜き差しならない映画への愛がある人だから」と答え、3作目の可能性については「乞うご期待」と答えた。

 徐々に視力を失っていくカメラマン雅哉(永瀬)と、映像作品の音声ガイドモニター美佐子(水崎綾女)の交流を通じ、生きるとは何かを問いかける作品。永瀬は撮影に向けて、弱視に見えるゴーグルなどを使って役作りをした。「雅哉は右上だけ見えるんです。微妙に見えるつらさ、不自由さもある。恐怖感をだんだん見えなくなってしまうつらさというのは、どんな気持ちだろうと恐怖を持ちながら、ゴーグルを付けて生活した」。河瀬監督も「完全に見えなくなるところに行く苦しみがある」と補足した。

 イベントには、永瀬が役作りのため話を聞いた視覚障がい者の会社員大谷重司さん(59)と、実際に音声ガイドモニターを務め、映画にも出演している田中正子さん(44)も出席した。弱視から全盲へと、雅哉と同じ過程を経験している大谷さんを前に、永瀬は「大谷さんは雅哉と同じように目の病気を経験なさっている。画家になりたくて上京された方で、雅哉を演じるに当たって一番…いろいろ、ありがとうございました」と声を詰まらせて感謝。「もう1人の雅哉です」と大谷さんの肩を抱いた。

 大谷さんは持ち前の腕っぷしを生かし、4月に米国で行われたクラシックベンチプレスの世界選手権で世界新記録を出し、金メダルを獲得したという。「4つ目のメダルなので、さほどうれしくないです」と話しつつも、場内からの温かい拍手に笑顔を見せていた。

 河瀬監督も田中さんに、「『映画はね、本当に大きな大きな世界なんだ。言葉でそれを小さくしないでほしい』って、正子さんが言ってくれたからこの映画が成立しました」と涙ながらに感謝していた。