SMAP、小泉今日子、西内まりや、真木よう子、満島ひかり…。

 最近も、著名芸能人が所属事務所を辞めて独立するケースが止まりません。

 昨年からは公正取引委員会が有識者会議を立ち上げて、タレントと事務所が交わす契約が「独占禁止法」に触れるか検証するようになり、先月には、多くの事務所で使われている「統一契約書」を作る国内最大の業界団体「日本音楽事業者協会」が法律の専門家などによる研究会を立ち上げ、契約書のひな型の見直しを始めたことも、ニュースになりました。

 この問題。ざっくりいうと、タレント側は、所属事務所が認めないと移籍できないという、いわゆる「奴隷契約」な点を問題視していて、事務所側には「多額の費用をかけて売り出したタレントに、稼げるようになったらすぐ辞められるでは収支が成り立たず、経営していけない」という言い分があります。

 たしかに、賃金の未払いなどのトラブルは、雇い主側の事務所に非があることが多いです。無数にあるプロダクションの中には、平気でそういうことをするたちの悪い会社があるのも事実でしょう。

 ただ、「奴隷契約」という過激な単語で、芸能事務所側のイメージが悪代官的になり、個人であるタレント側は、そこに対してけなげに戦う正義の主人公的に捉えられがちな世相は、芸能記者として現場に携わる立場の私には、少々違和感を感じる部分もあるのです。

 そんな構図になる理由の1つに、たとえば、「事務所側がテレビ局などのマスコミに『ウチを辞めたタレントは起用するな』と圧力をかけて、業界から干している」といったうわさなどがあったりします。

 大昔には、そんなこともあったのかもしれません。ですが、私の芸能記者歴10年以上の中で、そこまでのことを確証レベルに見聞きした例は、ほんの数件。現実は、売れっ子になったとたんに辞められたプロダクション側が忸怩たる思いを抱えながらも、圧力も何もかけずに、気持ちを切り替えて、次の新人を探し、育成している光景ばかりです。

 フリーになった満島ひかりも、辞められた事務所は引き続きサポートすると発表しました。これは、娘が親に「私は自分でやりたいから1人暮らしする。でも、家事はできないから助けに来て」という形です。このような第三者からみると片方だけに都合のいい形でも、親は複雑な気持ちになりながらも、手伝ってしまうことって、よくありますよね。きっと今、満島の前事務所はそんな娘を持った親の心境だと思います。

 芸能界が特殊なのは「商品」が「人間」なところ。パンや車を作っても、その商品と製作者(会社)が感情でぶつかるところはありません。プロダクションとタレントの間には、夫婦やカップル、親子関係のような感情が生まれるので、自然と愛憎やすれ違いが生まれて、もめてしまうのです。

 小泉のように勤続30年以上で定年退社のようならまだ穏やかですが、働き盛りの年代やキャリアで辞める事例に、お互いが心底、円満と思い合えることは、現実はほぼありえません。だから、この手のニュースを見聞きすると、間で取材する私は、毎回さみしい気持ちになります。

 最後に。「では、圧力がないのに、なぜ辞めたタレントはテレビなどへの露出が減っていくのか?」という疑問に、私なりの見解を書き添えます。

 実際に私が「ウチを辞めたタレントを新聞に載せるな」と言われたのは、約10年前に1回あっただけ。報道の新聞とは違い、ドラマやバラエティー、歌番組を持つテレビ局は少し事情が違うとはいえ、私の取材してきた限りは、ほとんど局側の忖度(そんたく)のような感じでした。

 そして、制作スタッフとタレントに本当の絆がある場合は、そんな忖度も働かず、引き続き仕事がもたらされています。

 ただ、制作スタッフらが番組作りをするときに、ギャラ交渉やスケジュール調整などの、一番シビアでデリケートな部分で向き合って特別な絆を築いていくのは、タレントよりも圧倒的にマネジャー(事務所)が多いわけです。だから、局側も自然な人間の感情として、辞められた事務所側に、勝手に気を使ったりするのではないでしょうか。

 スポーツのように記録や成績で明確に実力が計れるものならば、人間関係が仕事の増減にかかわることも少ないのですが、芸能の歌も演技もバラエティー能力も、100人いれば100通りの評価がある「曖昧な実力世界」。だから、より人間関係が成否に大きく左右するのだと、私は思います。

 このような背景があり、事務所を辞めた芸能人が、その後も大成功を続けた例は極端に少ないのですが、だからこそ、フリーや移籍した人たちの動向には、今後も注目していくつもりです。