大きな混乱もなく終わった今年のアカデミー賞授賞式の小さな驚きが助演女優賞となったアリソン・ジャニー(58)の「意外な」美しさだった。

 深紅のドレスで登場し「私1人(の力)でこの賞を獲得しました」と周囲へのお礼から始める通常の謝辞とは逆の言葉で切り出した後、「というのはまったく違って、素晴らしいキャストとクルーの励ましと協力、家族、皆さん…愛してます」と続けて笑いを誘った。

 美しさが意外というのは、対象作の「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」(5月日本公開)で演じた主人公の母親役の怖いほどの演技が印象に残っていたからだ。

 シングルマザー。ウエートレスの安月給から娘のスケート・レッスン代を工面し、五輪代表のフィギュアスケート選手に育て上げたのは立派だが、人前で娘を罵倒し、暴力を振るい、リンクでも平気でタバコを吸う。

 後に「ナンシー・ケリガン襲撃事件」で知られることになる世紀のヒール、トーニャ・ハーディングの生い立ちを見事なまでに印象付ける役柄だ。

 口元を皮肉にゆがめ、目は笑っていない…美しさは封印され、助演賞も納得の演技だった。だからこそ、授賞式の晴れやかな笑顔が余計に記憶に残ったのだ。

 ジャニーにとっては今回が初のノミネート、そしていきなりの受賞だった。

 30歳とデビューは遅い。「JUNO」(07年)や「ヘルプ~心がつなぐストーリー」(11年)などの出演作があるものの、どちらかといえばテレビドラマでおなじみの人というイメージだ。テレビ・シリーズ「ザ・ホワイトハウス」でエミー賞とSAG賞をともに4回。他作品も合わせるとエミー賞は7度受賞している。

 アカデミー賞は格が違う。演技者として最高の舞台に立ち、目は潤んでいた。美しさの内側にはデビュー28年間のさまざまな思いが詰まっていたのだろう。